その可能性はすでに考えた / 井上真偽
十五年前に秘境地のカルト宗教施設で起こった集団自殺事件の、その唯一の生き残りとなったかつての少女から依頼され、過去の事件の真相を解明する上苙丞の探偵譚である。
不可能犯罪ものなのだけど、斬新なのは“奇蹟の証明”が探偵の悲願である点。 つまり探偵は、奇蹟がこの世に存在すること(謎が合理的には解けないこと)を証明するため、 すべてのトリックが不成立であることを立証しようとする、いわば本来の探偵の逆張り的なポジションに立っています。 そんなウエオロ探偵の前に、対戦ゲームのダンジョンのように次々と対決者が現れ、勝負を挑みます。
当然ながら、めぼしい可能性を否定できたから奇蹟の証明に成功したなどという論理法則は存在しないわけで、すべての可能性とは“無限”を意味します。 証拠は問題でなく、僅かな可能性さえあれば仮説の構築が許される対戦者に対して、探偵側はその可能性に反証を突きつけて片っ端から潰していかなければならない、という趣向になります。 仮説を立てる側が一見有利に感じられるんですが、どこか一箇所を狙って崩せさえすれば構築された論理が自ずと瓦解してしまうんだなっていうコツが見えてきて面白い。
で、その、“可能性さえあればなんでもあり”な立場を誇張するかのように大道芸トリックを糞味噌に盛り込んだトンデモ仮説を引っ提げて現れる外連味たっぷりな対戦者たち^^; 時たま素に戻って、己れは何を読んでるんだ? と自問自答したくなるくらい無理を承知の滑稽問答のバカバカしさが充満してるのですが、推理の拠りどころとなるテキストが文章ナゾナゾに近いくらい隙のないパズルに徹して職人的に作り込まれていて、その土台の確かさが判ってくるとつい読み入ってしまうんですよね。 並列的な多重推理で終わらせず、階層的ベクトルへ切り込んでいく終盤がなんといっても肝。 可能性の否定を一つ一つ積み重ねていった先に、いきなり奈落が開くようにアンチテーゼが出現する。 ラスボスとの“信念”をかけた推理対決は、複数仮説を否定していく過程で生じるパラドックスをどう突き崩すかが焦点となり、弁証法の方法論そのものをミステリ的技巧の歯車にしちゃってるというか、まるで弁証法のなんたるかをストーリー化して描こうとしたみたいな展開になっていくんですね。
青髪にオッドアイの美青年、ウエオロ探偵。 彼の探偵活動はほぼその“奇蹟の存在証明”のためにあり、この大いなる欠点が他の美点をことごとく殺してしまっているらしい。 遺漏のないことを証明するという、いわゆる“悪魔の証明”に取り憑かれているわけで、これはまさに終わりのない物語なのです。 コンセプト倒れ系ではなく、奇蹟の証明法がきちんと命題になっている点が本作の強みです。
探偵の相棒を務めるのが老仏爺(西太后の愛称)の渾名を持つ、中国黒社会出身の女悪党フーリン。 常識外れの天然聖人キャラ探偵と、その探偵にかかると何故かマトモな常識人キャラのツッコミ要員と化してしまうフーリン。 なんとも矛盾だらけのコンビで、ヒューマニズムと不条理ナンセンスの兼ね合いに若干座り心地の悪さがあり、ノヴェルとしての肉質はちょっと微妙かなぁ^^; そこにも、二項対立を融合して何かを生み出そうとする弁証法的な図式を潜ませていたのかもしれませんが。 しかし今後に期待が充分持てます。 全体に極々ライトな読み口ですが、文理問わず雑多な薀蓄トリビアが散りばめられているのが楽しいし、フーリン目線のテキストには中国語のフレーズが散りばめられているのも風狂♪ フーディーニとドイルの比較照査が命題に対しても示唆的で興味深かったな。


その可能性はすでに考えた
井上 真偽
講談社 2015-09 (新書)
関連作品いろいろ
★★
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名探偵の証明 / 市川哲也
かつて一世を風靡した名探偵、屋敷啓次郎は、現在老境に差し掛かる身の上。 閑古鳥の鳴く探偵事務所に引きこもって開店休業状態の日々を送っている。 ラストチャンスと腹をくくり、引退をかけて事件解決に臨むべく、人里離れた資産家の別荘へ向かうと、そこには今をときめくアイドル探偵、蜜柑花子との対決が待っていた・・
鮎川哲也賞受賞作。 ベースは本格ミステリなのだけど、名探偵のその後を描いていて、おとぎ話で言うところの“めでたしめでたし”の先に続く、“幸せに暮らしましたとさ”の裏側を暴いて風刺するパロディ的な批評性を備えた物語。
日常世界の現実に照らし見て“ここが変だよ名探偵”的なタブーが探偵小説にはあるわけで、その一部をストーリーに取り入れて、名探偵を現実世界に整合させる試みがなされています。 メインの命題は“名探偵だって老いる”ですが、他にも(これはネタバレになるのかな? 一応伏字に)例えば「十割の確率で真相を暴く名探偵がいたら、挑戦するより殺害を企てる方がリスクが少ないと考える一定数の犯人がいても不思議じゃない」や「尋常でないほど献身的な警察協力者を必要とするがそんな都合のいい奴いるはずない」や「名探偵がいるから事件が起きると認識され犯罪の元凶として厄病神扱いされて然るべき」などもプロットに練りこまれ、 ツッコミ論理を多用して、人間ドラマ仕立ての物語をまとまりよく構築しているなぁと思いました。 オチがいいね。 あの皮肉で一本筋が通ったし、結末で評価が上がりました。
ただやっていることが目新しいかというとそうでもなく、探偵小説の世界と現実世界を整合させることができるかの問いかけ自体には、周回遅れのような今更感があります。 探偵は“神”か“人間”か、という命題には深遠な思索が伴いますが、それは1930年代の作家が抱いた切迫感や切実さでありましょう。 まぁだから、今やろうとしたらお遊びでもない限り陳腐な焼き回しになりかねず、逆に難易度の高いテーマと言えなくもないのかも。 でもライトでチープめな読み口が功を奏したというか、わりと健闘した方なんじゃないかな? てか、心はハードボイルドだよね^^;
もはや地上に“神”の居場所はなく、“人間”となって苦悩したドルリー・レーンは輝きを失い、次世代型の探偵に国譲りをして退場した・・ことが全てを言い尽くしてると思う。 雌伏の時を経て地獄の辺土から浮上したドルリー・レーンの血を引く新本格の名探偵たちは、それこそ“超人的”にタフだし、酔狂だし、捻くれてるし、吹っ切ってるし。 現実社会に生きる素の人間とは一線を画す方向に道を切り拓いて枝葉を広げ細分化し、ニッチにディープに進化し続けたり、或いは不整合性を承知であえてギクシャクと現実世界に居座らせ続ける道をふてぶてしくも選んで奇妙な安定化を成し遂げたり・・ ある意味、“神”から“悪魔”へと変身を遂げたのではなかろうか。 個人的な願望かもしれないけど。
あっ、いや、“新本格へのレクイエム”的な内容だという噂を小耳に挟んだりもしてたのだけど、そこまでの挑発はないない。 そんな風に取られかねない節もあるにはあるのだけど^^; むしろバブル絶頂期と現在の経済的な社会背景を、名探偵の栄華と凋落とに重ね合わせた趣向に近いような・・
しかしどうしてもその批評性の方に目が向き、肝心のミステリパートがくすんで見えてしまうのは惜しい。 あのどんでん返しは(勝手に侮ってたのもあって)引っかかるものを感じていたのに全く予想できず、しかも真犯人の動機がしっかりツッコミ論理にコミットしていて、自分は面白く読めたのだが、とはいえ、まだ本気が出てない気もするかなぁ。


名探偵の証明
市川 哲也
東京創元社 2013-10 (単行本)
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怪しい店 / 有栖川有栖
“店”を主題にした5作を収める作家アリスシリーズの短篇集。 “宿”にまつわる短篇を集めた「暗い宿」の姉妹編といった位置づけで、タイトルもシンメトリックですね。 腹案は十年も前から温めていたらしい。 荒俣宏さん編纂のアンソロジー「魔法のお店」に触発され、“店”の魅力や怖さを本格ミステリの枠内で書いてみようと試みた、とのこと。 有栖川さんご本人がおっしゃる通り、“商品やサービスを介して人間と人間が交わる場面で生まれるドラマ”を主体としているので、ミステリアスという意味での“怪しい”雰囲気はそんなに強くなかったものの、日常の中にふとした異空間を生じさせる“店”の持つわくわく感やざわめきが、ホットに描きとめられていた印象。
「古物の魔」は、あまり繁盛していない商店街の骨董屋で起こった店主殺害事件。 人称と視点の使い方が巧妙。 一瞬トリッキーに感じるんだけど、読み返すとちゃんと理に適っている。 犯行時刻の偽装がアリバイづくりとは無関係に企てられていて、その理由の特異性がミソ。 まさにタイトルを物語っているかのよう。
「ショーウィンドウを砕く」は芸能プロダクションの社長が完全犯罪に挑む倒叙もの。 短篇で時々書いてくれるこのスタイル、結構好きなのです。 火村&アリスを他視点から眺められて。 初対面時の犯人曰く、火村先生は“勝負師を連想させる”そうで、アリスは“人畜無害”とな。 合ってるし^^ それだけに、犯人がラストで示す火村評には波紋を投げかけられるしゾクッとなる。 “店”が唯一、実際の舞台ではないモチーフとして扱われており、やや観念的な意味合いを帯びてもいて、人の心とサイコパスの交差点を探るようなそこはかとないシリアスさが感じられる。 証拠をひねり出すロジックと、そのプロセスが光りました。
表題作の「怪しい店」は、繁華街から大きく外れた裏路地に粗末な看板を掲げる謎の店“みみや”で、風変わりな商売を営んでいた女性が殺害される事件。 趣向の見せ場はあるのだけど、基本は“射程の長い憶測が的中する”といったパターンなので、決定的な証拠ドーン!じゃない分、前述2作より見劣りする気がしないでもないかなぁ。
3篇の幕間を成すように挟まれた「燈火堂の奇禍」と「潮騒理髪店」の2篇は、ほとんどハートフルな日常の謎系。 辻褄合わせゲームを楽しむことに特化したタイプの気の利いた小品。 「燈火堂の奇禍」は、大家の婆ちゃんの誕生日を祝いに火村先生の下宿を訪ねる途中、ふらっと入った白川通の古本屋で、臨時店員と常連客からアリスが仕入れた古本万引事件の謎。 「潮騒理髪店」は、調査旅行で出向いた日本海沿いの小さな町で、ローカル線の待ち時間を潰すため、ノスタルジックな地元の理髪店の一見客となった火村先生に、店主が語ったとある女性の行動。 その真相がどちらも火村&アリスのなごなご安楽椅子モードで回想され、紐解かれるところに萌え要素あり。
筆がはかどらず、散髪に行こうと思い立ったところで、“理髪店が舞台のミステリ”へと連想を遊ばせたアリスが、脳内トリビアを列挙してくれるくだりや、火村&アリスや登場人物が披露するちょっとした商売哲学や“店”の美学談義、隠れ家的な喫茶店でのアリス&コマチ刑事チームの反省会あたり、プラスアルファのお楽しみ・・かな。 因みに「燈火堂の奇禍」で万引された本は「乱鴉の島」に登場した孤高の象徴派詩人、海老原瞬の詩集『黒色僧徒』でした。


怪しい店
有栖川 有栖
KADOKAWA/角川書店 2014-10 (単行本)
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アリス殺し / 小林泰三
身近な人々が夢で共有している“不思議の国”で起こる殺人事件、と連動して起こる“現実世界”の不審死。 一体どんな原理で発生している現象なのか・・ 人物同士がリンクする二つの世界を往還しながら進行していくSFミステリ。
「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」のメルヘンをベースとしつつ、そこへ「スナーク狩り」の不気味さをミックスして、キャロルの世界観をコラージュしています。 原作の素材が至るところでこれでもかってくらい料理されていて、特に白兎の証言なんか上手い使い方するなぁーと膝を打ちました。 夢の相互入れ子式構造には「鏡の国のアリス」のテーマ性が色濃く反映されており、単なる輪郭ではなく骨子として原作を活かそうとした魂胆の深さを感じます。
パネルマッチ・ゲームみたいに誰が誰のアバターなのかを見極めるのがメインなパズラータイプのミステリ。 クライマックス場面は、“読者と一緒に作中人物も驚ける叙述トリック”みたいな感じで、あえて言うなら正統的ではないんだけど、会話を主体にした三人称形式のテキストは用心深く、破綻していませんし、会心の伏線といい、文句のつけようがないですね。 でも、むしろその一発ではなく、良質な仕掛けを小出しにしながら、何段階にも分けて見せ場をつくり収束させていく手際の鮮やかさを評価したいです。
原作の言語遊戯を継承した、“不思議の国”の住人たちのまどろっこしい遣り取りも堂に入ってます。 それだけにもっと“現実世界”との差をメリハリつけて描いてもよかった気がしたんだけど、ある種の同調性はミスリードにもなっていたので計算づくだったのかもしれない。 どことなく漂う現実味の乏しさまでも。
登場人物がまるでトランプででもあるかのように記号的で、扇情味のあるグロ描写もほとんど重苦しさがないから耐えられるんだけど、乾き切った不条理に幾ばくかの滑稽味を加えて顔色ひとつ変えずに描いているようなしれっとした残虐性が、なんとも独特センス。 終盤のスペキュラティブ・フィクション的な展開から、ラスト一行に結実する突き抜けた清々しさが好き。 謎オチ風だけど、「本体が消えればアバターも消える→アバターだけでは存在しない」と考えれば、「赤の王様が新しい地球の夢を見始める→アバターが再生する→(必然的に)本体も再生する」ということにならないだろうか。 結局、どっちが主動なんだ? っていう。 最後までキャロルの向こうを張った逆説的(屁)理屈が捻じ込んであったのだとしたら・・ そう読むと痛快。


アリス殺し
小林 泰三
東京創元社 2013-09 (単行本)
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○○○○○○○○殺人事件 / 早坂吝
アウトドア派フリーライターのブログに集う常連メンバーたちが、毎年恒例のオフ会にやってきた小笠原諸島の孤島で繰り広げる“ベタ仕立て”のクローズドサークル・ミステリ。 ラノベ風味でコーティングしてるけど新本格マニエリストの手になる賢しらなミスヲタ向けの書と言っていいと思う。
説明するまでもないかもしれないが、タイトルの“○”は伏せ字。8文字のことわざなのだ。 冒頭の(曲者感アリアリな)読者への挑戦状曰く、犯人当てでも、トリック当てでも、動機当てでもなく、前代未聞の“タイトル当て”ミステリであるという。 またまたー、whoとhowが見せどころなくせに、このこのー。ふふ。
全体に自分で自分をいなしてる空気があって、謙虚なのか不遜なのか判然としないような拗れ加減に(決してマイナス面ではない)若さを感じる。 タイトル当てはちょっとした照れ隠し芸的な? 言ってみればオマケのオチなのだけと、本篇を本篇たらしめる犯行の珍奇さを上手く揶揄ってるからクスッとなる。 確かにこれ、伏せ字にしなければ核心突き過ぎ。 惜しむらくは答えをズバリ書かないで、文章でニヤッとさせてくれてもよかったような気も。
お下劣エロとキラキラ青春の取り合わせが無性に気持ち悪くて良いね良いね。 趣味じゃないけどw しかも犯人特定の切り札に導入された叙述トリックで眩ませている隠し符が、その両者の抱き合わせ的イメージさながらなのが振るってる。 ミステリマニアを語り手に、王道を弄びながら展開する自己言及的な超(?)本格だけど、この世界観(オェー;;)を踏襲したくだらなさで帳尻り合わせができてるんだよなー。 “仮面男”と“針と糸の密室”という旧套ギミックはパロディ化した下ネタ仕様で捻られ、歯車としてきちんと機能しているから古典を足蹴にするようなイヤらしさがなくて好もしかった。 しかしアレだね。 プライスレスの下衆な笑撃ウェルカム〜♪ てな“南国モード”ではっちゃけ読みできたもの勝ちな作品。 生温かい寛容の心でニラニラしてるような自分は負けの読者。


○○○○○○○○殺人事件
早坂 吝
講談社 2014-09 (新書)
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キャットフード / 森川智喜
ミステリを読む愉しみを満喫しました♪ 面白かったー。 ネコ族の中に少数の化けネコが(ミュータントみたいに)存在しているトンデモ設定なんですが、その化けネコたちが繰り広げる化かし合いが推理の土台になっています。 単行本刊行時には“名探偵三途川理と注文の多い館の殺人”という副題がついていたことからも察せられる通り、賢治の「注文の多い料理店」を踏まえたストーリー。
グルメネコは人肉がお好き!という結論に達し、食品工業ビジネスに参入した野心家化けネコのプルートは、“プルート・ミート・カンパニー”を立ち上げ、部下の化けネコと共に、宿泊施設を装った人肉ミンチのカンヅメ製造工場へ人間をおびき寄せる作戦を目論みます。 首尾よく四人の人間をおびき寄せたのですが、その中に、人間に化けて気軽なレジャーを楽しんでいた化けネコのウィリーが紛れ込んでしまう。 ネコ社会でのネコ殺しは御法度なので、プルートたちはなんとかしてウィリーが化けている人間を見極めようとし、ウィリーは愛着のある人間たちを守ってあげようと奮闘し、知恵くらべが始まります。
ハートフル・コメディではないのでお間違いなきようご注意を。 文庫解説を麻耶雄嵩さんがお書きになっていて、“コミカルで残酷、それでいて知的で逆説的なゲーム空間”と評しておられました。 実際、この喰えなさは麻耶ミスを彷彿とさせるものがあります。 ブラックジョーク通り越してクレイジーナンセンスの世界。 でも、ミステリ上のリアリティに適合し得る形式論理は頑なに保持するという手法。
基本、論理で徐々に追い詰めていく倒叙ミステリ風なんだけど、同時にそれは、着々と犯行を重ねていくプロセスでもあるという。 探偵が犯人で、犯人が探偵で互いに表裏を成す二重構造のような様相を呈していたのが、それを更にどんでん返す新機軸まで導入して畳み掛けてくる。 自分としては未だ読んだことのない斬新な“探偵像”だと感じました。
叙述風のトラップが効いてくる終盤のギアチェンジぶりもよく出来てて、実はここ、わたくし見破ってましたもので、ウィリーの数の誤認シーンはニヤっとしたんですが、二重のトラップでさらなる上をいってくれるオマケがついて大興奮。 以下、ネタバレになりますが、“探偵脳は反則に勝てない”というオチっぽい幕引きと思いきや、“ネコはネコを殺さない”というルールをトラッブでクリアさせちゃったのだと気づいた時、その、最後まで本格の名に恥じないカチコチさに唸って、そして笑ってしまった。
これ、人間として倫理的に完全アウトな三途川探偵のシリーズ一作目。 どんなぶっ飛んだサイコぶりを見せてくれるか続編に熱い眼差しを注いでしまいます。 “もぐもぐ”してたしね、してたね・・orz


キャットフード
森川 智喜
講談社 2013-09 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★
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菩提樹荘の殺人 / 有栖川有栖
“若さ”で淡く彩色したという、作家アリスシリーズの四篇を収めた中短篇集。 過去編? みたいな情報を小耳に挟んだので(正確には「探偵、青の時代」が回想もの、「菩提樹荘の殺人」に回想シーンあり程度)、まさか火村先生の例のトラウマ明かされちゃうの? とびびったんですがセーフ。 もう機を逸してるし、今更下手を打ってくださいますな、と思ってたけど、いつか“知る”瞬間が訪れたその時は、よござんす、書いてくだされ、と腹をくくりました^^; あとがきが沁み沁みよかったです。 シリーズに対する有栖川さんの愛着に絆されてしまった模様・・
少年犯罪とヘイト・クライムを扱った「アポロンのナイフ」は、索漠たる社会の病理を写し混んだ(殆ど)社会派ミステリの風格。 whyに問題提起を織り込んだインパクトのあるアイデアで、厭な凭れ感も悪くないと思う。 ただ、こういうシリアスな重さを求めて読んでないからなぁ。 やや自分の手には余り気味。
大衆文化を題材にした「雛人形を笑え」も、平和なご時世の心の隙間に食い込むような、えぐ味のあるストーリーではあったと思う。 が、しかし・・ 有栖川さんの仕事とも思えない、らしからぬ非本格。
「探偵、青の時代」は、大学時代の火村英生が、勉強会パーティに集った犯罪学科の友人たちの前で謎解きを披露する名探偵誕生前夜のエピソード。 サザエさん方式の世界にあって、本格作家の強みを活かし、背景を捨象する“過去”の描き方に納得。 伏線ד天の配剤”で偶然性を回避させつつ、そこに和み系の擽りを添える筋立ての冴えがよいっす。 なーにが落とし物じゃ、くッ♪ それを見抜けるのはアリスだけってか結婚しちまいやがれ大好きw でも、この脱俗感やキャラ萌え感はシリーズの一構成要素にすぎず、社会性や群像を重視した前半二篇のような系統や両成分のブレンド比率各種混ぜ込みながら書き続けることで、シリーズならではの奥行きが自ずと生まれて来たというもの。
最終篇の表題作「菩提樹荘の殺人」は、年を取らない世界に封じ込められて、眩しさと幾ばくかの残酷さをまとい超越的に“今”を生きているエバーグリーンな二人が、年を積み重ねることの真っ当さを語らい、思索するところにズキンとする切ない痛みがあって、そこが白眉な一篇。


菩提樹荘の殺人
有栖川 有栖
文藝春秋 2013-08 (単行本)
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高原のフーダニット / 有栖川有栖
作家アリスシリーズの中篇集。 中篇のみの三篇構成は初なんだね。 2012年はシリーズ20周年でしたか。 火村英生は使い減りがしないそうで^^; ずっと働かせる宣言いただきましたー。 慶賀♪
「オノコロ島ラプソディ」は、基本アリバイ崩しの淡路島トラベル風ミステリ。 アリス置いてかれたw これはもしや、火村先生とアリスはいつも一緒にプライベート旅行してるわけじゃないよアピールかしら有栖川さん?
自分は端正な理詰めと同等に叙述トリックが大好きで、それは思うに “文章で”惑わせるという、舞台や映画では成し得ない、小説だけに許された奥義のようなものを感じて、本読み心を擽られるからなんだけど、その醍醐味は作中人物と読者間のズレ、むしろ両者が一体になれないところにあるのだから、“読者と一緒に作中人物も驚ける叙述トリック”なんて矛盾の極み、出来損ない、邪道だー!と力説したい。 アリス、間違っても目指さないで欲しいわ;; ともかく、“珍妙なトリック”も(理屈では)無理がないよう筋立ての中に捻じ込んでるのは流石で、それよりなによりメタを仕掛けてこの難問を上手く料理したなと思った。 “悪い見本”というのをおちゃらけてやってみました的な妙趣。 あと、野上刑事のジョーク二連発に吹いて、三毛猫アリスにクスクス〜♪
アリスが見た十の怪夢が漱石の「夢十夜」風に綴られていく「ミステリ夢十夜」は、殆ど座興なノリの不条理ナンセンスもの。 このシリーズのカラーである“普通の本格”を逸脱する手法として夢設定を用いたところが反則ではあるけれど、もう反則ってレベルじゃなくてノン・ミステリ。 リアルという縛りから解き放たれた十篇十色のトリップ感。 深層心理モドキが見え隠れする感触と、アリスったらこんな夢見てるの?w って冷やかし根性とが相俟って、これはこれでやたら美味しかった。 そこかよ!な第八夜がお気に入り。 あと、ラストの“白いもの”がジワジワくる第五夜^^
最初の二篇は言わばイロモノで、最終篇の「高原のフーダニット」のみが正統派路線。 タイトル通り、whoに焦点を絞った本格でした。 誰か? を特定するための推理の性質が極めて記号的(アトリビュート的と言うべきか)で、個人的には、こういうちょっと物足りないくらいシンプルな様式志向は趣味に適うので楽しめたし、長閑な高原でクローズドチックに展開される雰囲気も好み。 ただ、インパクトは前二作の圧勝。 完全に喰われてる^^;


高原のフーダニット
有栖川 有栖
徳間書店 2012-03 (単行本)
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トネイロ会の非殺人事件 / 小川一水
コアなSF畑の作家さんってイメージなんですが、タイトルが気になりすぎて放っておけずに参戦^^; 三篇を収めた中篇集で、わりと予想どおりSF風味なミステリ。 小川作品の中では毛色の違う一冊になるのかな?
表題作は“犯人たちの中に犯人でない者が紛れている”という、逆転の発想がなんとも新味な非犯人探しミステリで、アイデア勝負ものとして面白く読みました。 ある意味、本来より悪趣味かもねw 作中で犯人たちが結成する“トネイロ会”とは、“似たようなトリックの登場する小説にちなんで”名付けられているんですが自力では全く分からんかった・・orz しかも読んでるのに! もう一捻りして、せっかくのタイトルを活かしたら気が利いてたのになぁ・・という思いが残って、個人的にはラストが非常に惜しい気がした。
「星風よ、淀みに吹け」は、典型的なクローズド・サークルの殺人事件で、心理劇的緊張感とロジカルな段取りは「トネイロ会の非殺人事件」に近く、民間信仰のように受け継がれる地方都市の伝承を探る「くばり神の紀」は、土俗的かつバイオホラーな不気味さがナイスでした。
全体的にソリッドなシチュエーションで閉鎖的雰囲気が満点。 ただ、三篇に共通して、分かち合いや互助や協調をヒューマニックに扱う指向が強く感じられて、そこが読んでてややしんどい気もしたかなぁ。 その意味では「くばり神の紀」の暗い危うさを歓迎したい。 個人と集団、罪深さと人情味のところで難しい領域をチョイスして描いてる気がするんだけど、それが安易なのか敢えてなのか、これ一冊ではなんとも掴み難く、図らずも?あるいは魂胆どおり?厄介な後味を残すなーと。 考え過ぎ? 最近エンタメの読み方がどうもアレだね・・迷走してるね;;


トネイロ会の非殺人事件
小川 一水
光文社 2012-04 (単行本)
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三階に止まる / 石持浅海
石持さんは馴染みの薄い作家さんなんですが、新刊が気になっていたので読んでみました。 ノンシリーズとしては初短篇集なのだとか。 ホラー風味なミステリで、緊迫した閉鎖的スペース感と毒モチーフが印象的。 日常から少しく乖離した準SFチックな架空間は、その斜め上的ズレ加減がぞわっとシュール^^; これは・・ そう、ソリッド・シチュエーションってやつよね! エキセントリックな状況や境遇の不可侵性を描くのが上手い作家さんだ。
好みは「転校」「三階に止まる」あたりかな。 総じて、実在感があるような無いような登場人物たちが変w ねーよ!って場面で唐突に場違いな推理に耽り出す超然ぶりとか、ほとんどバッドエンドなんだけど、そこに一掬の微苦笑が混入する塩梅とか、根本的に何か微妙に調子が狂ってる感じがするw でも、論理の開陳パートがメインディッシュになっているのが流石で、ハウダニットに力点を置いた堅牢さがミステリとしての骨格を確りと支えている。
きっちり人間ドラマが入ってるからディープなトランス感はなく、一定のエンタメ律が保持されている気安さ手軽さを素直に楽しむタイプの作品なんだと思う(ほんと?)のだけど、ひねこびてるもんだから、逆にそこの気色悪さに惹かれてしまいました。 ヒューマンとマッドが同居しているような食い合わせの悪さ・・ これ、特に顕著に感じのは「黒い方程式」だったな^^;
一番長い「院長室」は、“世紀「謎」倶楽部”の企画もので、「EDS 緊急推理解決院」というアンソロジーに投稿作家の一人として参加した作品とのこと。 ミステリ界の名探偵諸氏を丸々名探偵たらしめるために、遂にこんなお誂え舞台を作っちゃいましたーっていう振るった企画で、ちょっと調べたところでは連作長編っぽいみたい。 単品で全然普通に完結してる(ように見える)秀作なんだけど、他作品とどんな風に補完し合ってるんだろう。 読んでみたい♪


三階に止まる
石持 浅海
河出書房新社 2013-07 (単行本)
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