グルブ消息不明 / エドゥアルド・メンドサ
[柳原孝敦 訳] 2015年にフランツ・カフカ賞を受賞した著者は、ラテン文学ブームの後継者というべきポストブーム世代を代表するスペイン人作家だそうです。 本篇は1990年8月に新聞連載された小説。 メンドサ自身は、掲載されるごとに読み捨てられるのが当然という認識で書いていて、本にしようという気なぞさらさらなかったらしいのだけど、結果的に彼の著作の中でもっとも読まれ愛されている作品になっているというのだから面白い。 “ある特定の地方で、特殊で二度と繰り返されることはないし、他の場所に移して考えることもできないような時期に起こった突飛な出来事”を描いているから・・というのが、読み継がれるには不向きと思った一因らしいのだけど、むしろ他でもないその特異性が、何か途轍もなく輝いてる感じ。 それに、単行本化の際に提案された大幅な加筆修正を承諾しなかったからこそ、この即興文学(?)とでも言いたくなるような稀有な奔放さが生き残ったんだなぁーという感慨が湧いてならない。
地球滞在の任務を遂行するため、バルセロナにやってきた肉体を持たない純粋知性の宇宙人2人組。 部下のグルブがマルタ・サンチェス(当時のスペインポップス界を代表する歌手だそうで、お色気のシンボルのような女性っぽい)の姿を借りたまま着陸早々行方不明になってしまい(そりゃ人生楽しかろう・・)、捜索に乗り出したボスの“私”が綴る日誌のような体裁のバルセロナ滞在記というか漫遊記というか。 オリンピックを2年後に控え、都市整備による目まぐるしい変化の只中にあった活気や混沌が、よそ者たる宇宙人の客観的視線で巧みに捉えられていて、ウィットや皮肉やユーモアや風刺が利きに利きまくった遊び心旺盛な筆致。 でありながら、なぜか自然に醸されてしまう寄る辺なき抒情が憫然と沁みたりもして・・
日々、グルブを捜しに街区をうろつく“私”が、その時々の状況判断や気分に応じて外観を取っ替え引っ替えしながら目立たないよう(言わせてもらえば悪目立ちw)立ち回ろうとするも、たまさか繰り広げてしまう地元民たちとのチグハグな交わりには、微異次元的ナンセンスと目から鱗の誇張法とのリミックス作用の如き、“当たり前”を揺るがす擽りが一杯。 しかしまぁ、モル・デ・ラ・フスタの屋台で一暴れして警察に連行されてしまったり、オスピタレットの流行りのバルで飲んではしゃいでつまみ出されてしまったり、なかなかにラテン系入ってる宇宙人なのだw 大好物はチュロスだし。ふふ。 夜はパジャマに着替え、歯磨き、読書タイム、お祈りが日課。 時々胃薬。 馴染めてるのか馴染めてないのか・・ 狙い澄まして誤手を打ってる訳じゃない真剣切実な迷走スパイラルは一つの芸の域に達しているかのよう。
バルセロナの社会風土を描くためにSFのガジェットを借用している点で、ジャンル小説としてのSFとは一味も二味も違います。 そもそも、ここまで大胆不敵なブレブレ設定をものともせずに突き進むSFなんてありません^^; 細かいことは気にせずに読み進もうの精神で、アクロバットな叙述をええぃままよ!とばかりにぐいっと呑み干すのが美味しい味わい方だろうと思います。 ここぞという状況で多用される、畳み掛けるような繰り返しのリズムが特徴的で、何より本作のチャームポイントであり、ツボりどころでもあるのだけど、これ、当時使い始めたワープロの文字複製機能に触発された試みだったんだって。 詩と文明の粋なコラボだなぁ。


グルブ消息不明
エドゥアルド メンドサ
東宣出版 2015-07 (単行本)
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