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夢の車輪 / 吉行淳之介
[副題:パウル・クレーと十二の幻想] 著者のパウル・クレーに注ぐ偏愛と“奇妙な味の小説”に対する嗜好とが結びついて生まれたという掌篇集。 幻想領域とは人間の感性を拡張させる舞台なんだなーと、そんな思いに耽りました。 緻密な思考から幻想味溢れる絵を生み出すクレーのスタンスに少なからずの意識を置いて創作されたのではないでしょうか。 十二枚の絵に添えられた十二篇の幻想譚は、幻夢譚と言っても差し支えないくらい曖昧模糊とした“夢”を装置として用い、無意識の欠片のようでありながら知的な構成力に支えられてもいて、滲んで拡散してしまうということがありません。
クレーに寄り添い、クレーの内面へ分け入ろうとする志向ではなく、あくまでクレーから刺激を得た吉行淳之介の独自世界。 抽象画から受ける抽象イメージなのであり、両者の関連は“匂い付け”程度に過ぎないのですが、色彩や動きやリズムといった波長の呼び交わしがあり、その表層的な連関の幽かさがいいのです。
日常の背後に広がる不穏な亀裂に落ちてしまうかのような、現実世界のネガといった雰囲気の夢・・ 先鋭化された深層心理が妙に生々しく匂い立ち、実際に見た本当の夢に材を得ているのではないかと勝手に想像したくなってしまう。 クレーの絵が(常識的なフレームを取り外しただけで)現実のごく身近な気持ちから発していることを思えば、あり得そうな気もするのだが。 どうなんだろう。
なんとも独特の翳りが射していて、昭和期の男の昏いニヒルなダンディズム的香気が濃厚で。 未知で異質な生き物である女への尽きぬ興味と嫌気というアンビバレントな想念が通奏低音のように響き渡っている感じ。 (若干フェミニストの眉を顰めさせそうな)女性の様態をモノ化して観察するかの如きセンスは、もはや年月を経ていい感じで熟成されていて、物憂く悩ましく郷愁をそそられてしまいます。 官能的で強迫観念的で冷酷で、すっとぼけていたりもして・・ 夢とうつつの狭間を行きつ戻りつ、燦めく粒子のような感覚刺激で生理の奥底を揺さぶる妙々たる描写に身を浸してしまいました。
巻末に図版解説付き。 取り上げられたクレー作品の寸感とともに彼が生きた時代とその足取りを追うことができます。


夢の車輪
―パウル・クレーと十二の幻想―

吉行 淳之介
文藝春秋 1983-11 (単行本)
関連作品いろいろ
★★
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