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ポアロのクリスマス / アガサ・クリスティー
[村上啓夫 訳] 殺人が洗練され過ぎて貧血症的になってきたと指摘され、その返礼として書いたというだけのことはあり、らしからぬ王道的な派手やかさを具えた夢のような仕上がりになっています。 クリスティーからのクリスマス・プレゼントな一冊。 大好き!
かつて南アフリカに渡りダイヤモンドで身代を築いた大富豪の老人シメオン・リーが、離れて暮らす家族一同を招いたクリスマス・イヴに、屋敷の自室で惨殺死体となって発見される。 壊され散乱した調度品や家具類、辺り一面に広がる血の海、断末魔の雄叫び、そして密室! 血がドバーの死体とか、バカミス系物理トリックとかクリスティーがやってくれるなんて、まさかまさかの出血大サービスに歓喜♪ まぁ、外から鍵かけただけだし密室そのものの不可能性をがっつり扱っているわけではないんだけど、大御所の系譜に連なる心理トリックを援用して不可能犯罪を完遂するための副次的な密室状況を上手くお膳立てしてるなぁと思いました。
あの犯人があのトリックを仕掛けていざ起動させる姿を想像して大爆笑。 後から考えると「マクベス」の一文を引用したエピグラフのダブルミーニングにニヤッとなるし、良き伏線となっていた老執事の混乱ぶりが不憫でクスッとなります。 目を凝らして読むとあちこちでいろんな人が“取り違えてる”んだよね^^; 解説読むまで気づかなかったのですが、偏屈なスクルージ老人ならぬ“シメオン老人と三人の幽霊の物語”は、間違いなく「クリスマス・キャロル」への目配せですよねぇ。 しかしながら、家族感情の団結を促し、平和と善意の心を行き渡らせる荘厳な祝祭として、ディケンズが知らしめた古き良き英国のクリスマス精神を見事に反転させる悪魔的茶目っ気の発想が創作の淵源にあっただろうことが察せられます。 クリスマス・シーズンには日頃の不満を抑制して偽善を心がけ合うため、裏を返せばそこに緊張が生まれ、取るに足りなかった嫌悪が突然より重大な性質を帯びて顕在化する可能性があるというポアロの持論が的中する展開に。
因みに背中の後ろの冷たい隙間風が気になるポアロのお好みは、薪を焚べて赤々と燃える暖炉の火ではなく(クリスマスムードもへったくれもない)最新式のセントラルヒーティングとな。 結構新し物好きなんだよね^^
死者の性格が謎の焦点であり中心であるとみてとったポアロが心理学風アプローチで真相に迫る・・ そこはいつもな感じなんですが、“血の犯罪”という象徴的イメジャリーに一貫した整合性を持たせ一本の筋を通しているところが好もしい。 皆を集めてさてパートで、起こったかもしれない可能性を突きつけて無実な者らを一人一人震え上がらせるあの悪趣味な(笑)平行推理披露の段取りさえ、単なるローマン・ホリディではなく、血の中に潜んだ犯罪を象徴する物語の歯車になっているかのようでした。
期待はずれな子供たちに不満を隠せないシメオン老人は、平和の促進ではなく家族間の不和を喚起して気晴らしに面白がろうと目論んで、そんな自らの血に背かれる(因果応報ではあるものの)ある意味では番狂わせの結果となってしまうわけで。 何気に頗る皮肉の利いたストーリーですが、人の心の善性、成長や再生、過去から未来への眼差しを、受け継がれる血と微かに共鳴させることも忘れない、照れ隠しのように素っ気なくも暖かな終局。 今のところポアロ・シリーズのマイベスト♪


ポアロのクリスマス
アガサ クリスティー
早川書房 2003-11 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★
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