サム・ホーソーンの事件簿6 / エドワード・D・ホック
[木村二郎 訳] シリーズ最終巻。 これで全72篇、読み尽くしてしまいました。 どんな風に幕引きをするつもりだったのか、そんな予定があったのかなかったのかもわかりませんが、大外枠としては、“過ぎし日のミステリ黄金期を懐かしむ”という居ずまいが感じられるシリーズでもあったので、このフィニッシュは巧まずして鮮やかと言えるかもしれない。 ホックはまだ書く気でいたのに・・と思うと寂しいのは大大大前提なんですけどね。
1941年春から1944年秋まで。 最後の12篇には第二次大戦直前から末期までの、ほぼ戦時下の背景が織り込まれた格好です。 銃後活動としての戦争債権募集イベントや屑鉄回収運動、若者たちの徴兵などが、実際、ストーリーと絡めて描かれていたりもします。 特に初期は先の見えない重苦しさが暗い影を落としていますが、戦況が好転していくに連れて、徐々に黒雲が晴れるように明るい空気が勝っていく様子など、ニューイングランドの小さな町に暮らす庶民の心境が、それとなくしみじみと伝わってきます。
人口が増え、機械の普及が生活や仕事の様式を劇的に変え、医学や犯罪捜査が進歩し、一巻目、サム先生が赴任したばかりの1920年代前半とは大きく様変わりしたノースモント。 高級なステーキハウスや宝石店もできました。 サム先生史的には、隣町シン・コーナーズとの町境に動物病院を開業した女性獣医アナベルとの結婚、娘サマンサの誕生という大イベントが用意されています。 レンズ保安官は7期目にして最後の保安官選挙に出馬しますが、対立候補の選挙参謀が殺害され、容疑をかけられることになり、これがなかなかの窮地。 サム先生が鹿撃ち帽にインバネスケープ、パイプに虫眼鏡のホームズ・コスチュームを披露するシーンも一興。 そういえばサム先生、前巻でひょんな成り行きから仔猫のワトスンを飼うことにならなかったっけか? あれれ?まぁいいや。
全盛期に比べるとトリック自体のレベルダウンは否めないのですが、味つけの仕方で充分に読ませる作品が多いですね。 「黒修道院の謎」は摘発できない犯罪もので、心理的アプローチが見事でした。 「巨大ノスリの謎」はメインの事件よりもなぜ棺の中身が違ったのかの真相に惹かれました。 サマンサ誕生回の「自殺者が好む別荘の謎」は、サスペンスタッチな展開とラストのコメディ&ハートフル感が特別な一篇。 最終篇の「秘密の患者の謎」は、とある実在人物の歴史秘話ものとしてキラリと光る作品です。 「羊飼いの指輪の謎」がトリックのクオリティも含め、一番の仕上がりだったように思いました。
それにしても、ノースモントの町は最後まで驚異の不可能犯罪発生率を維持し続けてくれましたね^^ 呑んべえの法螺吹き爺さんに聞き手は一杯食わされてるんじゃないのか疑惑も同時に薄っすらと醸し出されている辺りが、また楽しかったんだよね。 若き日の武勇伝(?)を披露するサム老人は、寂しいやもめ暮らしなんじゃないかと半ば勘ぐってたのですが、そうじゃなかったー!っていうトリビアが挿入されててなによりホッとしたっ♪


サム・ホーソーンの事件簿6
エドワード D ホック
東京創元社 2009-11 (文庫)
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