ウエスト・ウイング / エドワード・ゴーリー
文字としての情報はタイトルのウエスト・ウイングだけ。 とある古い瀟洒な洋館の西棟へ続く暗い階段を上り、開いたドアの先のドアを開けて・・ 踏み入ってはいけない禁域の奥へ奥へと誘われてしまう文字のない絵本。
無音感の密度が非常に濃いです。 壁紙や絨毯の模様、床やドアの木目など、いつにないほど執拗に一面を埋め尽くす線描の稠密さが、説明されない怖さを充満させるに一役買っていること請け合い。 ゴーリー作品の中でも屈指のホラー色。 いや違うな、ホラーというよりクラシカルなゴースト・ストーリーの世界を彷彿させる空気。 英国正統派怪奇小説のファンには堪らない一冊だと思います。
彫像のように瞑想する紳士、影のように虚無的な夫人、アルカイックに微笑むメイド、歩けないのかもしれない少女といった、なんとか現実との接点が感じられる存在も、ひょっとするとかつての生者なのか。
打ち捨てられた小さな靴、床に倒れている男、壁で塞がれた窓、梯子階段を上った屋根裏部屋にひっそり鎮座する荷造りされた巨大な箱など、怪しめく不吉な気配を堂々と発散させているかと思えば、部屋の隅に人のように横たわる丸太のような絨毯や、裸体の男や全身包帯ずくめの男など、若干滑稽味を醸すシュールさが紛れていたり。
半分水に浸かった部屋、人型の壁のシミ、宙に浮く紙屑や蝋燭、窓の外にぼーっと佇む幽霊などなど、一見してポルターガイスト風なシチュエーションも、騙し絵のような目の錯覚や微妙に狂わせた遠近法による効果のせいなのか、行き着くところ判然としないのです。 わざと意図的に判然とさせないための詐術を仕掛けまくって読者の解釈を眩惑するのです。 怪異なのかそうじゃないのか、幻影なのか実体なのかと・・
開いたドアの先の無明の闇に消えていく女性のドレスの裾が鏡越しに見えているカットや、倒れた椅子の足が優美な曲線を(妙に生々しく)仄暗い壁の曲がり角から覗かせているカットなんかが好き。 ゴーリー印の妙ちくりんな生き物と白い小さなカードももれなく発見できます。
見返しと扉の間に存在している白紙のページのその隅に、パン屑を落としながら歩くヘンゼル風の少年の可愛い小さな絵が。 暗澹たる記憶の塗り込められていそうな、あのお屋敷の邪悪な西棟へ向かっちゃってるのでしょか? ああぁー坊や! 行ってはダメぇー>< ・・と思ったら! よくよく見ればばら撒いてるのはドクロじゃないですか! 惨劇の黒幕かよ! 帰りかよ! みたいな^^; 今、西棟に入らんとする怪し気ムンムンな扉絵の人影は、きっとダミー。 読者にカメラアイを提供する探訪者、記録者に過ぎないのではなかろうか。 しかし溜息が漏れるほど巧者ですねぇ。


ウエスト・ウイング
エドワード ゴーリー
河出書房新社 2002-11 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★★
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