10の奇妙な話 / ミック・ジャクソン
[田内志文 訳] 現代イギリス人作家による2005年刊行の短篇集。 原題は「Ten Sorry Tales」だそうで、まさに“奇妙”と“sorry”が表裏を成すが如き小品が並んでいます。
舞台となっているのはロンドンだったりウェールズだったり、間違いなくイギリスのどこかであり、おそらくは現代(少なくとも戦後)なはずなのに、なんともヴィクトリア朝風の古色をまとっていて、御伽噺と類縁関係の強い慣れ親しんだ素朴さを際立たせているのが特徴的。 イギリスの伝統風土に身を置くような、旧世界の残像を感じさせるアナクロニックな雰囲気が好きです。
悪人ではないのだけど共感力がない人たちの犇めく“世界”から孤立してしまう主人公たち。 往々にして因果が作用しているため不条理な印象は薄く、ロマン掻き鳴らす荒唐無稽でファンタスティックな展開の内部に反響し木霊する悲哀や痛みに寄り添える余地があります。 意識下に抑え込んでいた渦まく感情が閾値を超えた刹那、ある“境界”に立たされている主人公たちの心の在りようが描かれており、作品の核にヒューマニストとしての視点があるのは確かなのだけど、洒脱さで覆い尽くし、屋台骨をおいそれとは露呈させません。 優れた悲劇はその喜劇性に支えられているという一つの真実を、こよなく理解している作家だと思います。
道徳律の枠内を逸脱するもの、しないもの、魔法的事象が出来するもの、しないもの、こちら側の秩序へ回帰するもの、しないもの・・ コンセプト志向の作品集ですが、ヴァリエーション豊かでそれぞれに温度差があって飽きが来ません。 もっと読んでいたかったなぁ。
「ピアース姉妹」がマイベスト。 山姥ならぬ海姥伝説、あるいは青ひげ伝説風モチーフを継承したシンプルな筋書きなのだけど、平凡な日常を狂気へと反転させてしまう“境界”が最も鮮烈で。 この「ピアース姉妹(The Pearce Sisters)」は、アニメーションでの映像化作品をネットで観ることができたのですが、そちらも素晴らしい。 大絶賛したい。 原作の上質さを損なわないまま、視覚効果によって本来の笑いと悲しみがよりシャープに表現されています。 なんだか原作の意図を再確認させてもらえた気がします。
ランタンを下げたボートが点々と音もなく漂う地下湖の映像美が、半永久的に忘れられそうにない「地下をゆく舟」と、悪趣味ギリギリのイギリス的ユーモアにとどまらず、落語張りの落とし話になっていてテンション跳ね上がってしまった「川を渡る」もお気に入り。 憎々しくてふてぶてしい老馬とのマジ勝負(笑)な物語「ボタン泥棒」もチャーミングで好きでした。
ちなみに、古物店や博物館や秘薬秘法モチーフが魅惑的な「蝶の修理屋(The Lepidoctor)」も映像化されているのですが、こちらは実写版。 幾分か脚色されてて、めっちゃいい話になってた^^ でもこれはこれで全然悪くない。 「もはや跡形もなく」は西洋の民話世界における“森”の寓意を見事に体現していたと思いました。 「眠れる少年」も非常に寓意的。 自分の人生の漠とした心許なさと共鳴してしまう作品。 この両者が醸し出す“大人になる”と“大人になれない”の暗示的コントラストが印象深いです。
モンタギューおじさんの怖い話」と同じデイヴィッド・ロバーツが挿絵を描いてます。 ティーンズから大人まで楽しめる系でゾゾっと怖くてクラシカルな雰囲気で・・的な持ち味の小説と相性いい絵だよねぇ。 ティム・バートンぽくてゴーリーぽくて大好きなのだ。 表紙では各短篇の主人公たちがお揃いで記念撮影しちゃってます^^ セピアトーンがまた素敵。 裏表紙はジャック坊やかな・・?


10の奇妙な話
ミック ジャクソン
東京創元社 2016-02 (単行本)
関連作品いろいろ
★★
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