懐かしいラヴ・ストーリーズ / アンソロジー
[中村妙子 編訳] イギリス(とアイルランド)の女性作家7人による“愛の物語”の競演。 原作の初出が二十世紀半ばから80年代頃とおぼしき短篇群で、小説の舞台も概ね同年代。 “ちょっと古めかしく、どことなく昔懐かしい感じ”のセレクションです。 そして都会もの、カントリーもの、どちらの作品からも由緒正しさや上品さが豊かに香っています。 中村妙子さんというと、わたしとしては児童文学とクリスティーのイメージなのだけど、本アンソロジーにも採られているロザムンド・ピルチャーやミス・リードといった作家さんの翻訳にも心血を注いでいらっしゃったんですね。 特にこのお二人の「ララ」と「ドクター・ベイリーの最後の戦い」は、善性への信頼が厚く底流していて、やさぐれた心に沁みて沁みて。
“田園作家”と称されるリード。 本編収録の「ドクター・ベイリーの最後の戦い」は、コーンウォールに実在する村をモデルにしたスラッシュグリーン村に暮らす住人たちの日常を描いたシリーズの中の一篇らしい。 あとからあとからじわじわと涙が滲んでしまうデトックスな佳品。 ただ今回は抄訳だったのだよね。 完訳版、それに種々他篇も収められた連作短篇集「スラッシュグリーンのたたかい」をぜひ読んでみたい。 「ララ」の清く正しく美しいベタさも大事。 ララの内面描写がないことがこの小説を輝かせていたのだろうなぁ。 そろそろぼちぼち一周回って正しい本に心洗われたいお年頃なのかもです。
しかし、まだまだやはり「雪あらし」もよかった! ハッピーエンドに限りない疑問符が打たれているかのような心理小説っぽさ、夢オチの最後を描かなかったみたいなこの感覚・・堪らないです。 セアラは一体どこから泡沫の夢の世界に滑り込んだんだろうと考えると、二人で暮らした部屋のドアを開けた時? その下宿の玄関ドアを開けた時? 昔馴染みの道に入った時? と遡って、やっぱり自分が“スノーボールの中にいる女の子”だと感じた刹那に行き着く気がしてならないのだ。
「マウント荘の不審な出来事」は、ヴィクトリア朝風のご婦人を若干おちょくり気味に、でも基本は温かい眼差しで描いていて、ユーモアのセンスが絶妙。 戦争の傷跡が重たく垂れ込めた時代の昏い熱気が遣る瀬なく漂う「もう一度、キスをして」は、もう・・タイトルが切なすぎる。 このワンフレーズのチョイスに痺れてしまう。 セッティングは古風なんだけどテーマがどこか現代的で、唯一ラヴ・ストーリーという括りでは捉えきれないものを感じたのが「砂の城」。 子供が大人になるための日々の経験値のなんでもないような(けれど確かな)断片、その一瞬をさっと捉えて逃すことなく描破する感性が凄まじくて、苦しいほどのノスタルジーに締めつけられました。

収録作品
雪あらし / ジーン・スタッブズ
マウント荘の不審な出来事 / ジュディー・ガーディナー
愛だけでは… / ステラ・ホワイトロー
ララ / ロザムンド・ピルチャー
もう一度、キスをして / ダフネ・デュ・モーリア
ドクター・ベイリーの最後の戦い(抄訳) / ミス・リード
砂の城 / メアリ・ラヴィン


懐かしいラヴ・ストーリーズ
アンソロジー
平凡社 2006-12 (単行本)
関連作品いろいろ

| comments(0) | trackbacks(0) |
C O M M E N T








http://favorite-book.jugem.jp/trackback/1043