まったき動物園 / エドワード・ゴーリー
[柴田元幸 訳] ゴーリー世界の動物園に棲む架空の生き物が名前順に紹介されるアルファベット・ブック。 さながらゴーリー版“幻獣辞典”の趣き。 ゴーリーなので察しはつきますが、陰鬱として、荒涼として、浅ましく、さもしい、ミゼラブルな負の動物園です。 邪悪、虚無、怠惰、強欲、絶望、賎陋、陶酔・・ なんたらの大罪みたいな生き物たちだらけなんだけど、良からなさや珍奇さ、ダメダメ具合がめっちゃ愛おしく感じてしまったのは何故だろう。
今回、なんだかとてもアイロニーとペーソスの純度が高くて切なかったのだ。 この世の穢れを引き受けてくれてるような、そんな定めを背負っていることさえ知らず粛々と淡々とチンケでコワッパな魔物として生きてるような。 どうにもこうにもいじらしく健気に思えてきてしまい。 この感覚は「ギャシュリークラムのちびっ子たち」を読んだ時に近いかもしれないけど、その何倍も強かった。 ただ、ゴーリーがなんらかの意味を積極的に込めたとはさらさら思ってなくて、読者に投げてるからこその自由度がこんな気持ちを誘発させるのだとはわかっている。 病みつきにさせられる魔法の秘密はむしろそこなんだろうな。
姿形の不気味さや奇妙さや可愛さやユニークさと、シチュエーションのシュールさやダークさや滑稽さに、個別の性質が加味され、それらの強弱濃淡、色合いの違いが集まって、またとない禁忌とネガのワンダーランドが生み出されています。 首吊りに失敗してるワムブラスと、前足を見つめるトウィビットに堪らん哀愁を感じます。 囚われのジェルビスラップはそっちかい!なツッコミ待ちのトリッキーな絵面にクスッとなります。 唯一無二なのに死んじゃってるゾートもお気に入り。 一番チャーミングなのはレイッチとポスビー辺りかな。 モークのビジュアルにも妙に惹かれます。
最初わからなかったんだけど、白黒反転している表紙と裏表紙が凄かった! おとぼけ風歌舞伎の隈取りみたいな顔した虎たち(あるいは正の世界に生きる元気なリンプフリグなのか?)が犇めいていて、タイトルと著者名が虎模様の中に擬態のように紛れています。 もっと詳しく言うと中央の虎たち八匹は、表紙と裏表紙とが完全な反転を成しているのだけど、その周りを取り囲む植物の葉(ほとんど見分けがつかない!)はそれぞれ別個に描き分けられているという凝りっぷり。ゴーリーは表紙の仕掛けも毎回楽しみの一部なのです。 脚韻を踏んだ二行連句を短歌調に仕立て直した訳もいつもながら(いや、いつも以上に)お見事。素晴らしい仕事に感謝。


まったき動物園
エドワード ゴーリー
河出書房新社 2004-01 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★
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