ユーゴ修道士と本を愛しすぎたクマ / ケイティ・ビービ
[S・D・シンドラー 絵][千葉茂樹 訳] 四旬節の初めの日、ユーゴ修道士は、修道院の図書館に聖アウグスティヌスの本を返すことができませんでした。 なぜなら、おことばのあまい香りを嗅ぎつけたクマに本を食べられてしまったから。 修道院長はユーゴ修道士に申しつけます。 グランド・シャルトルーズ修道院へ行って同じ本を貸してもらい、すべて書き写し、わが修道院の図書館におさめ直すようにと。 かくして四旬節のあいだ中、ユーゴ修道士は写本室に閉じこもり、同僚たちの助けを借りて写本作りに励むことになったのでした。
骨身を削る作業を無事に成し遂げ、最後は借りた本をグランド・シャルトルーズ修道院へ返しに行くのですが・・ふふふ。 めでたしめでたしなのかと思いきや、なにこのすっとぼけた終わり方w ちょっと童謡の“やぎさんゆうびん”を思い出してしまった。 クマに食べられて写本を作りっこしちゃうエンドレスパターンじゃないのかこれ? お話は単純なのだけどウィットがあっていい味出てます。 食べませんけどね^^;
写本の作業工程を伝えることがメインテーマとなっている絵本。 当時の修道院を中心とした写本文化がどういうものだったのか垣間見させてもらいました。 印刷技術が発明される以前、すべて手作業で一冊の本を作り上げていた中世の頃のお話ですが、元ネタがあるなんてびっくりです! 巻末の“歴史的背景”によると、12世紀、現在のフランスにあたる地域に学問と本で有名な二つの修道院があったそうで、どちらにも大きな図書館があり、手紙のやり取りで議論をしたり、本の貸し借りをしたりしながら交流していたという。 本作品で描かれているのがその二つの修道院、ペトルス・ヴェネラビリス率いるクリュニー修道院と、グイゴ率いるグランド・シャルトルーズ修道院なのです。
しかも、クリュニー修道院の聖アウグスティヌスの書簡集がクマにかじられ消失してしまったことも史実で、ペトルス修道院長がグランド・シャルトルーズ修道院に宛てて貸し出しの依頼を綴っている手紙が残ってるんだって。 そっかぁ、そこから生まれたんだね。 この可愛い本は。 現実的に言うと羊皮紙とインクの素材の匂いがクマ好みなのかな? お話の中では“ハチミツより甘い”尊いみことばが書かれている中身の芳しさという含みがもたせてあってファンタスティックなのだ。
木枠に張って滑らかに伸ばして作る羊皮紙、“虫こぶ”を砕いて雨水に浸し、そこへゴムの木の樹液と緑礬を混ぜて作るインク、鵞鳥の羽根ペン、飾り文字・・神の知恵を次の世代に受け渡すために作られ、神聖なことばのありがたみを最大限に表すため、美しく豪華に仕上げられた写本。 文字は一語一句間違えないよう写すことが求められたでしょうが、物語を彩るために埋め尽くされる飾り絵は、写本作者の裁量に委ねられる部分が大きかったんでしょうねぇ。 オックスフォードのボドリアン図書館に収蔵されている写本の中に、作り手の修道士が自画像を描いて“絵描きのユーゴ”と署名を残している写本があるそうで、著者は主人公のユーゴ修道士をその実在した一人のお茶目な写本作者へ捧げているようです。
クリュニー修道院はフランス革命の時に破壊されてしまったそうですが、グランド・シャルトルーズ修道院は現存しているんですね。 ロマンだなぁ。 カリグラフィーや額絵や蔓の意匠など写本を意識したイラストも素敵。 修道士さんたち、やっぱりみんな髪型がザビエルなんだ


ユーゴ修道士と本を愛しすぎたクマ
ケイティ ビービ
光村教育図書 2015-12 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★★
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