笑ってばかりで、ゴメンナサイ!! / アンソロジー
ティーンズ向け叢書、“読書がたのしくなる世界の文学”シリーズの一冊。 十八世紀から二十世紀初頭にかけての海外文学の短篇作品が、“笑い”をテーマに選りすぐられています。 古き良き訳で味わうというのがコンセプトになっているようで、作者もさることながら訳者が錚々たる面々。
なにぶんオーソドックスな、けれどそれだけ物語の力強さがストレートに伝わってくる作品ばかり。 語りの随所にユーモアを噛ませるというよりか、オチのウィットや一筋縄ではいかない余韻を愉しむといった、ストーリーそのものの反映として生まれてくる“笑い”には、様々な余地が付随し、馥郁とした奥深さがありました。 諧謔精神という気概の鉱脈に触れさせてもらった気分
対象の名前を知れば相手を支配出来るという概念が込められた、いわゆる“名前の神秘性”をテーマとしていることで知られる「ルンペルシュチルツヒェン」は、道徳的な教訓が見当たらないグリムの一作として、妙に存在感があって記憶に残っています。 チャーミングで不敵でシュールで、確かにどこかコミカルなものが潜んでるんですよね。
「葬儀屋」は、怪奇幻想風味のドタバタ喜劇譚。 主人の強欲さと後ろめたさが風韻を漂わせています。
“枠物語”の「飛行鞄」は、どこか「千一夜物語」を想わせるものがあるんですが、調べてみたら、その「千一夜物語」の影響を受けたとおぼしきフランスの東洋学者フランソワ・ペティ・ド・ラ・クロワ作の「千一日物語」の中の「マレクとシリン王女の物語」を下敷きとしているらしい。 人を喰ったようなラストに味があります。
「糸くず」は、それこそまさに“たった一本の糸くず”で破滅に至る男の悲哀と滑稽さをアイロニカルに描き、同時に“嘲笑”というものの怖さをシニカルに描いていると言える最も苦みの強い一篇でした。
互いの思い違いを叙述トリック風にさばいた「老僕の心配」は、巧い!の一言。 唯一(?)ハッピーエンドと言える一篇で、心温かくクスクスっとさせてもらいました。
「幸福な家庭」は、『幸福な家庭』というタイトルの小説を書き始めた小説家の思惟の流れをたどるエスプリの効いたメタ風味な作品で、小説家の世知辛い実生活と、描こうとしている小洒落た理想世界とのギャップが切ないのだ。 読みながら常に笑いが伴う点で非常に楽しかった一篇。
掉尾を飾る「破落戸の昇天」は、正確にはモルナール・フェレンツの戯曲「リリオム」を森鴎外が翻案した作品だそうです。 原作を知らないので、異同がどれほどのものかはわかりませんが、一握の抒情に胸がいっぱいになります。 偏見かもしれないけど、この機微は日本人に馴染み深いんじゃないかなぁ。 主人公のツァウォツキーには、どことなくダメダメな江戸っ子のメンタルを想わせるものがあって^^;

収録作品
ルンペルシュチルツヒェン / グリム兄弟(楠山正雄 訳)
葬儀屋 / アレクサンドル・プーシキン(神西清 訳)
飛行鞄 / ハンス・クリスチャン・アンデルセン(菊池寛 訳)
糸くず / ギ・ド・モーパッサン(国木田独歩 訳)
老僕の心配 / オー・ヘンリー(吉田甲子太郎 訳)
幸福な家庭 / 魯迅(井上紅梅 訳)
破落戸の昇天 / モルナール・フェレンツ(森鴎外 訳)


笑ってばかりで、ゴメンナサイ!!
アンソロジー
くもん出版 2014-12 (単行本)
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