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という、はなし / 吉田篤弘
[フジモトマサル 絵] “読書の情景”というテーマで、先にフジモトさんが絵を描き、そこへ吉田さんが後からショート・ストーリーを添えるという、“挿文”方式のリレーで生まれた絵物語集。 24枚24篇の“読書の情景”が収められています。 コラボ感がいいんだよなぁ。 実にいい。
夜行列車に揺られ、縁側に座り、入院中のベッドで、木蔭に寝そべり、散らかった部屋で、釣り糸を垂れながら、喫茶店の窓辺で、独房で、屋根に上がって、キッチンで、古本屋の書架の前に佇んで、プラットホームのベンチに座り、灯台のふもとで・・ ストーリーを見事に想起させるシチュエーションで、それぞれに本を手にする24種24匹の動物たちの絵が可愛くて。 煩雑さや時間に追われながら世知辛い現代社会に生きる人間の、ふっと開いた心の空隙を埋めてくれるようなお話に、擬人化された動物の絵を当てるなんて、キュンとさせてくれるなぁ〜、優しい哀愁がたまらんなぁ〜と、そう思って読んでいました。
まさか順番が逆だったとは。 あとがきで知って驚いてしまった。 もう一度絵を見返して、ストーリーを頭に呼び戻し、そう来るのかと。 吉田さんのインスピレーションの息吹きを追体験させてもらうオマケのひと時までも、この本の愉しみのなかに含まれていたみたい。
忘れられた、取り残された、裏側の、自由な、孤独な・・ あくせくした日々のなかで、なかなか共存できないもう一人の分身のような自分への労わりが、ほっこりとした浮遊感に包まれ揺蕩っていて、これは心をほぐしてくれるお薬本だと思いました。
どのお話も気が利いていてウイットがあって、“他愛ないのに味わい深い”というセンスを体現しているかのよう。 ちょっとした認識の異化作用がポイントなんでしょうね。 物理法則をさらりと無化してしまうような思いがけない視点から光を当て、ありきたりの基準のなかでは埋没してしまう大事な感覚を掬い取って喚起してくれるというか。 ってな理屈こねこねも不要なんです。 ただもう心地よく癒されるのが一番・・そう思わせてくれる軽妙さが稀有。
読者(特に本好きさん)が自己投影できるあるある要素が散りばめられているのだけど、真っ先にこれわたし!ってなったのが「眠くない」のキツネさん。 お月さま目線を思わせる絵もよくて、ふとアンデルセンの「絵のない絵本」を思い出してしまった。 「稀有な才能」のイタチさんの姿が自分とシンクロして見えて、無性に胸が締めつけられたり。 「日曜日の終わりに」のリスさんも沁みるなぁ。
「とにかく」のペンギンさんの絵はストーリーを読む前と読んだ後で印象が全く変わります。 ニンマリした口元がなかなか元に戻りません。 「寝静まったあとに」の絵と文も親和力が極上美味ですなぁ。
若い頃、(時には誤読のまま)感情移入しまくって、我を忘れるくらいのめり込んだ読書は楽しかったなぁーと「背中合わせ」を読みながら懐かしい気持ちがせり上がってきたり、「影の休日」はとびきり素敵なお話から再度パワーが注がれた、“人影”じゃないでしょw の絵が愛おしくて切なくて悶えそうでした。
「ひとり」は、ちょっとした叙述トリック系のオチ話になっていてふふっとなるんだけど、「夜行列車にて」はまた違って、お話の中でいつの間にか視点、立場が入れ替わってるっぽい感じがシュールで好きなのだ。
お二人のあとがきが載ってるんですが、メイン・ポジションを譲り合うどうぞどうぞ的な(?)あとがきタイトルのコラボまでなごなご笑かしてくれます。


という、はなし
吉田 篤弘
筑摩書房 2006-03 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★
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