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ノーサンガー・アビー / ジェイン・オースティン
[中野康司 訳] 1798年頃に書き始められたものの、出版社との紆余曲折をはじめ、諸々の事情が重なり、作者の死後1817年に「説得」と合本の形で発表されたそうです。 後々の推敲の跡があまりなく、オースティン作品の中で最も若々しいと評されています。 (まだ読んだことないんですが)ヒストリカル・ロマンスってこんな感じなのかなぁ? と思わせてくれる。 往年の少女漫画を彷彿とさせる世界観が広がっていてトキメキが止まりませんでした。 実際、“ラブコメの元祖”との定評があるらしい。 納得です。
中産階級の田舎の牧師一家でのびのびと育った17歳の平凡な娘、キャサリン・モーランドが主人公。 世間知らずで純情なキャサリンが経験を得て、内面的な成長を遂げるという普遍性を有した物語であり、試練を経て、思いを寄せるヘンリー・ティルニーとの結婚に辿り着くまでを描いた王道のラブストーリーでもあります。
無論それだけではなく、一世を風靡したゴシック小説のパロディになっていたり、財産重視か愛情重視かによる結婚観の対比であったり、社交的な因習への皮肉であったり、善と悪が混在する人間性の描写であったり、散りばめられた先行小説の引用であったり、当時は軽視されていた“小説”に対する作者の愛情表明であったりと、主題ともいうべき様々な醍醐味がひしめき合っているのです。 しばしば作中に作者が顔を出し、補足したり釈明したり主張したりと弁舌を振るう“語り”の手法も、逆に新鮮で面白かったなぁ。
二部構成の作品で、まず第一部では、シャペロン(付き添い役)の地元の名士アレン夫妻とともに、キャサリンは垢抜けた温泉保養地バースに滞在することになり、滞在中のエピソードが綴られます。 社交場での舞踏会の様子や、知性と教養に溢れ、ウィットに富み、やがてキャサリンを導く指針となる青年ヘンリーとのときめく出会い、軽薄で派手な美しい娘イザベルとの熱に浮かされたような友情、勘違い男のイザベルの兄ジョンとのトラブルなど、田舎娘の初々しい社交デビューの経緯が、享楽的な都市小説風に展開されるとともに、慣習を無批判で受け入れる浮薄な世間に流されそうになりながらも踏みとどまり、良い感化を与えてくれる人物を見極めるヒロインの、育まれていく自主性が刻印されています。
そして第二部では、ヘンリーの父であるティルニー将軍の招きで、キャサリンはティルニー家の邸宅、グロスター州の“ノーサンガー・アビー”に滞在することになります。 古い修道院を改装した由緒あるお屋敷に、バース滞在中に読み耽っていた、ラドクリフ夫人のゴシック小説「ユードルフォの謎」の舞台を重ね合わせ、心躍らせるキャサリン。 一時は根拠のない怪奇的な妄想の虜になって恥ずかしい失敗をしでかすものの、ヘンリーの啓蒙により、常識の光に照らされて理性の世界に引き戻されるのですが、この、ゴシック小説の世界へ踏み迷ってしまうキャサリンの行動の喜劇性はとても印象的。 更にヘンリーの妹エリナーとの落ち着いた真の友情や、イザベルとのごっこのような友情の破局が描かれ、クライマックスにはティルニー将軍の心変わりによる酷い仕打ちが待ち受けます。
財産と愛情の対決の構図にもなっている父と息子の宿命的対決を経て、愛情の勝利が謳われるラスト。 ネタバレで申し訳ないんですけど、実家に篭り悲しみに沈むヒロインの元へ、ヒーローが駆けつけ結婚を申し込むという王道パターンは、いくつになっても乙女心を擽ります。
当時の女性は、男性からの告白後に恋に落ちることが美徳とされていたそうなのですが、この作品はまずキャサリンが恋に落ち、その思いを感じ取ったヘンリーが、徐々にキャサリンに対して愛情を募らせていくという図式になっていて、常識を裏返した型破りな恋愛観が意図的に表現されているんですね。 芯をしっかりと持ちながら、新しい価値観を創造していくオースティンのかっこよさが時代を超えて伝わってきます。



ノーサンガー・アビー
ジェイン・オースティン
筑摩書房 2009-09
(文庫)
★★
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