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まぼろしの少年リック / エマ・テナント
[井辻朱美 訳][めるへんめーかー 絵] 日本では「高慢と偏見」の続編を書いたことで知られるイギリス人作家の子供向けファンタジー。 ロンドンに暮らす少女メリーが、夏休みに田舎のおじいちゃんの家に行って不思議な少年リックと出逢う話です。 ロンドンに帰ってからの再会を約束する二人ですが、メリーの前に現れたリックは・・
優しくて繊細で静かな雰囲気と挿絵のタッチがいい感じにマッチしたゴースト・ストーリー。 最初、日本のお盆みたいなお話だなぁと思って読んでたんですが、そう来るのか・・と。 子どもたちに戦争の悲しさを伝えるイギリス版の児童書。 こういう本は世界各国独自に存在するはずですが、なにかとても稀有な読書経験でした。 日本だけが悲惨だったわけじゃない。 当たり前なだけと。
なによりハッとさせられたのが井辻朱美さんのあとがきの深い洞察でした。 ずっと以前に読んだ本ですが、ファンタジーの読み方を勉強させてもらった感覚が忘れ難くて、残しておきたいなぁと。 以下、あとがきからの引用です。 ネタバレあります。
<略>
でも、この物語には、ふつうのゆうれいのお話とはちがうせつなさがあるように思えました。 リックは、ふたつの姿で、メリーのまえにあらわれます。それはしかたのないことだったのです。
人は自分がくらしたことのある場所と、強くむすばれています。 その場所で、なにを感じてなにをしたか。 それはその人の肉体の、ある時期の時間とわかちがたくむすびついています。<略>
子どものリックが、メリーのおじいちゃんのいなかにしかいないように、ロンドンにはおとなのリックしかいない。 それはうごかせないできごとです。
たましいだけがすきなように、時間をさかのぼるということはできなくて、ある時間には、ある場所とある状態の体がむすびついているのです。 そのかけがえのなさが、わたしをたまらなく、せつなくさせたようです。
ところで、ある体験がわかちがたくむすびついている場所のことを〈トポス〉といいます。 <略>
人びとが共通に、戦争などのきょうれつな体験をした場所にも、そのことの記憶がたまっているような気がします。 空間にきざまれて、のこっている「思い」です。
メリーの夏休みは、あのあらしの晩の経験がなくては、完全なものにはなりませんでした。<略>
人の生涯のはじまりの幼年期の幸福と、そしておしまいの時期のにがさと。 メリーはひと夏のあいだに、それをいっきょにとおりぬけました。 生から死までをとおりぬけたあとにやってくるものは、再生です。 新しい生まれかわりです。
そうして、生命のサイクルはつづいていきます。 友だちのベッカのうちに、思いがけず赤ちゃんが生まれてくるのは、そのことをしめしているようです。
さいごのメリーのことばには、とてもふかい思いがこもっています。 この世にやってきたばかりの男の子が、これからどんなふうに生きて、この世界をわたっていくのか、メリーはこの夏、それをかいまみるような体験をしたのです。 新しい生命のうえに、いままでにすぎさっていった人びとの思いや無念をかさねて、メリーはいままでよりもふかいまなざしで、その子の人生を思いやることができたのではないでしょうか。
わたしはこんなふうに、お話のさきを考えてみます。
ベッカとその子のあいだに生まれる経験は、こんどはメリーもすんでいるこの街、ロンドンにふかくむすびついたものになるでしょう。 その子の思い出の中には、メリーも出てくるかもしれません。 かつて不幸な記憶もたまったことのあるこの場所を、新しい生命がやわらかい、よろこびの記憶をかさねていくことによって、いやしてくれるかもしれません・・・
<略>



まぼろしの少年リック
エマ テナント
金の星社 1997-07
(単行本)

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