※ ネタバレご注意を ※

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | - |
アリとキリギリス ドレの寓話集 / ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ 原作
[挿画:ギュスターヴ・ドレ][翻案・解説:谷口江里也] 古代ギリシアの時代から語り継がれ編み継がれてきたイソップ寓話をベースにして、17世紀のフランス詩人ラ・フォンテーヌが著した寓話詩集に、ヨーロッパ古典文学の世界を丸ごと描いたと言われる19世紀の木版画家ドレが圧巻の挿絵を施した有名な版が存在します。 本書はドレの挿絵をそのままに、ラ・フォンテーヌが詩の形式で書いた個々の物語をもとにして、谷口さんが新たに文章を書き起こしたもの。 寓話は時代と寄り添いながら緩やかに変化するものであるという観点から、今という時代に合わせ、あえて新しい解釈や表現に書き換えることで、大切なことを見つめ直そうという試みがなされています。
ドレの挿画で西洋の古典が復活するシリーズの第七弾に当たるようで、116点もの挿絵が収められています。 ドレはそれまでの挿画本の常識を超えて、大きな版型の緻密な版画をたくさん用いたそうですが、本書には丸々1ページを費やす版画も多数掲載されていて、比較的安価な割に紙質もよく、ドレの挿絵目当てということでも、その美しさを十分に堪能できるかと思います。
ラ・フォンテーヌの寓話詩からは80点が取り上げられています。 オオカミ、キツネ、ネズミ、ロバ、ヒツジ、ライオン、カエル、鳥や虫・・ 様々な動物を中心に、時には村人や王様、植物や風などに仮託した人間生活の諸相は、寓意に富んだ知恵の宝庫です。 ルイ14世の絶対王政下を生きたラ・フォンテーヌの原作には、帝王学的な価値観への嗜好が見られ、やや権力的で批評性が強いところがあるそうなのですが、谷口さんは、現代人の感覚や価値観を重視して教訓のニュアンスを少し変えるアレンジをしておられ、風刺やブラックユーモアの利いたショートショート風、縁起譚や報恩譚、滑稽ながら哀愁ある話、シニカルだけどクスッとしたくなる話、滋味深い話、頓知話という概念では括れないくらい考えさせられる話、余韻がたまらない話・・などなど、どの物語も違和感なく心に響きました。 恐らくは翻案のなせる業なのでしょう。
どぎつい嘲笑や糾弾の払拭、その矛先の逆転や、救済の余地や、両義的な印象への改変など、なんとなく手入れの跡は窺えるのですが、なんせ原作を読んでいないもので正確には比較できず、原作を知りたい気持ちと、優れた翻案もいいなぁと思う気持ちとが、どっちつかずになって、少々落ち着かない心地は正直ありました。 イソップ寓話の21世紀ヴァージョンと割り切って読むべき本かと思います。
各寓話には解説ページもあるのですが、どちらかというと随想のような感じに近いかも。 潤いあるしなやかな思索によって、今と未来を見据えた考え方や生き方のヒントが示されています。 ただ、本来のテーマ性からは少しピントがズレているようなところもあったり、学術的な考察本ではないので、そこを求めて読むと少し物足りないかもしれません。
表現技術にうっとりしてしまうのは勿論なのですが、挿絵の中にさりげなく自らの思いを込めるのもドレの優れた特徴の一つ。 時には動物たちを擬人化し、逆に社会の中の人間のシーンに置き換えてみたり、また、寓意的で多様な解釈が可能な描き方をしてみたり、豊かな視覚的広がりを通してインスピレーションを与えてくれる印象的な絵も多く、感性の鋭さが垣間見えます。 ドレの卓越した場面や人物描写は後の映画作品にも多くの影響を与えたそうです。 ドレが第一回印象派展の開催に尽力していたことは知りませんでした。 解説に挟まれるドレ情報のあれこれが嬉しかったです。



アリとキリギリス ドレの寓話集
ジャン ド ラ フォンテーヌ 原作
宝島社 2012-06
(単行本)

| comments(0) | - |
スポンサーサイト
| - | - |
C O M M E N T