檀林皇后私譜 / 杉本苑子
平安初期を生き抜いた、嵯峨帝の后である橘嘉智子の生涯を追いながら、光仁帝から桓武、平城、嵯峨、淳和、仁明帝までの時代の変転を描く壮大な歴史ロマン小説。
天皇自らが国を引っ張っていた律令国家の最後の時代から、藤原北家が足場を固め摂関政治の基礎を築くまでの流れといってもいいし、奈良麻呂から檀林皇后まで、中堅勢力であった橘氏がどのように政争を潜り抜けてきたかという読み方もできるし、嘉智子という1人の女性の生き様を描いているといってもいい。
橘嘉智子(檀林皇后)は、自分の亡骸を“焼かず埋めずありのままで野に晒して欲しい”という言葉を残したことで有名なのだけれど、彼女が人生の最後に辿り着いた境地に想いを馳せながら読むとさらに味わい深いと思う。 政治、経済、軍事、宗教、愛と憎しみ、栄華と滅亡・・あらゆる生の営みが詰まっていて、ガッツリと読みどころ満載。
謀反を企てたとか呪詛したとか、明らかなでっち上げで、バッサバッサと政敵を排除する。 後になって怨霊に怯えることになるのに^^; でもさらにその背後には怨霊を操る人為的な陰が蠢いて・・というのが、この時代のパターンかも。
前半は「薬子の京」と時代が重なっている。 薬子はやっぱり悪女ではなく悲劇の才女というのが定説? “薬子の変”に留まらず、本作品は、もっと前後の時代を大きく捉えているのと、相当に踏み込んでいるのとで、藤原一門の内輪争いだけではないものが見えてくる。 橘氏、坂上家、親王や帝までも、利用されているばかりではなくて、藤原家にどう食い込み、どう生き残るか、熾烈な陰謀術数に綾取られた暗闘が繰り広げられていく。
それにしても内麻呂→冬嗣→良房と続く藤原北家の、この半端ない腹黒の血筋って・・ 怖いよぉ〜、こんな時代に生まれなくてよかったよぉ〜。 まぁ、生まれてたとしても平民だろうと思うけど、平民はもっといやだよぉ〜。 疫病や飢きんに次々と襲われて、道端や河原に死体が野晒し&山積み状態。
死生観の鮮やかな対照が印象深かった。澄みきった(澄み過ぎた)最澄のストイックさと、清濁あわせ呑む空海の快楽主義的な対比や、骨を砕かれ塵となって消滅したいと願った淳和帝と、即身仏として形のまま残ることを願った空海。 平城帝の失脚後、俗世を離れ静謐な時間を求めた高丘親王と、敵に身を売り俗世の中を濁々と生きた阿保親王・・などなど。 なんだかもう、どんな生き方をしようとみんな生きているだけで生き抜いただけで偉いよ凄いよと(おこがましくも)御霊を慰めて差し上げたくなってくるのだった。


檀林皇后私譜 上
檀林皇后私譜 下
杉本 苑子
中央公論新社 1984-11 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★★
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