大庭みな子の雨月物語 / 大庭みな子
“わたしの古典シリーズ”の一冊。 上田秋成の「雨月物語」全編と「春雨物語」の一部が、大庭みな子さんの現代語訳で収録されている。 ファンタジックな説話風の物語というと、なんとかの一つ覚えみたいに、すぐ今昔物語をイメージしてしまうんだけど、日本と中国の数多の古典の中から題材を選び、秋成独自の視点で再構築し、さらに構想上の技巧があらゆる方法で張り巡らされた相当にインテリジェンスな作品のようだ。 技巧(和歌の本歌取りとか、モチーフの連なりとか・・)の部分は解説を読まないと(読んでも;;)わたしにはわからなかったのだけれど、でも確かに“昔話”という感じではなくて、もっと洗練された妖美な“幻想文学”といった雰囲気を纏っている感じ。
「雨月物語」は、日本の怪異小説の最高峰といわれる作品で、いわゆる怨霊や鬼や妖怪話なわけなのだけど、どの話からも、愛欲や邪念から解き放たれることのない人間の業が滲み出しているというか。 ねっとりとした情念が抑えた筆致の中に息づいていて、現代の怪異小説の多くが「雨月物語」に相当にインスパイアされているのがわかる。
「春雨物語」からは、歴史を連関させた作品群3編と、説話風の「樊會(はんかい)」が収録されている。 「雨月物語・春雨物語」通して、わたしはこの「樊會」が一番好き。 善悪以前の圧倒的な生命力が体当たりしてくる感じ。 魅力的なこの主人公は、水滸伝に登場する豪傑がモデルらしいのだけれど、わたしは勝手にスサノオをイメージしてしまった。 悲しい話でも感動を呼ぶ話でもないのに、読み終えて訳もなく泣けてきて自分で驚いた。 掘り出し物・・なんていったら失礼ですけど、わたしにとっては鍾愛の一篇になると思う。


大庭みな子の雨月物語
大庭 みな子
集英社 1996-08 (文庫)
大庭みな子さんの作品いろいろ
★★★
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