紅蓮の女王 / 黒岩重吾
黒岩重吾さんの古代ものは、ずっと読みたかったのだけれど、取っ掛かりが掴めずにいた。 本書は黒岩さんにしては短めで、すっと手が伸びたので。 後で知ったのだけれど、古代史作家としての出発点となった作品らしい。
敏達帝から用明帝、崇峻帝を経て、推古女帝時代の飛鳥文化の幕開け前夜までを描く。 敏達帝の后であった炊屋姫(後の推古帝)が、敏達帝の死後、寵臣であった三輪君逆との恋に燃え、恋を失い、復讐に狂い、やがて女として燃え尽きるまでの鮮烈な生き様を軸に、炊屋姫の激情すら巧みに利用して、物部氏を滅亡に追い込み、したたかにのしあがる蘇我馬子の権謀術策の手腕が光る裏舞台を鮮やかなコントラストで写し取って見せてくれる。
ローマ人の物語」を読んだ時に、キリスト教がローマの神々に取って代わった経緯が丹念に考察されていて、日本では古来の神道と渡来した仏教の間でどんなせめぎ合いがあったんだろうと、ふと気になったりしたものだった。 本書はまさに、仏教派の蘇我氏と神道派の物部氏の攻防の物語だ。 まだ“異国の蛮神”扱いの仏教を支持した蘇我氏であったが、どうやら経典への理解や信仰心などでは甚だなくて、韓土との貿易の恩恵や、天神地祇を祀る大和朝廷の地位の低下を目論んだためであったらしい。 馬子や炊屋姫が仏像に手を合わせて計略を練ったり復讐を誓ったりしているちょっと勘違いな姿が、逆にリアリティがあって引き込まれる。
さらに、人物だけではなくて、磐余や飛鳥の野山、宮廷の生活様式などの背景がダイナミックかつ繊細に活写される。 古代の息吹をすぐそばに感じるほどに臨場感があって素晴らしかった。
未亡人の王妃とナイトの燃え上がる恋の炎という宝塚ワールド張りの華麗なロマンスも強烈なアクセントとなって乙女心を酔わせてくれました。


紅蓮の女王 −小説 推古女帝−
黒岩 重吾
中央公論社 1995-08 (文庫)
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★★★★
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