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さゆり / アーサー・ゴールデン
米国発の所謂イロモノではない“芸者のメモワール小説”として全米でベストセラーとなり、世界各国で翻訳され、ハリウッドで映画化もされ話題になった。
昭和初期から戦後にかけて、祇園で名をあげた、さゆりという1人の芸妓の半生がモノローグ形式で綴られる。 晩年のさゆりの独白を口述筆記し英訳したという体裁を取るため、原文そのものが、日本語からの英訳を意識して書かれたという巧者な作品。
で、まず、原文が英語であることを忘れてしまう。 言い回しや比喩的、感覚的表現の美しさは、もちろん原文から発せられた魅力なのだろうし、はじめのうちこそ、機知に富んだ発想が逆に、日本語の表現として微妙な違和を感じなくもかなったのに、小川高義さん訳の流れ滴るような京言葉が醸し出す祇園情緒にすっぽりと包み込まれているうちに、これはきっとさゆり独自の感性なのだと、ストンと納得して読んでいた。 そんな自分にすら気付かなかったくらいで・・
著者や訳者が心配しておられたような“事実の検証よりも雰囲気作りや物語性重視というスタンスが日本人読者に受け入れられるか”というような危惧は、わたしにはかすりもしなかった。 少なくとも日本に住みながら、花柳界と全く接点のない一般読者が満足を得るレベルは遥かにクリアして余りあると思う。 そういった文化的な考証云々・・というよりなにより、しっとり、はんなり息衝く日本情緒が秀逸で、ただもう惚れ惚れした。 衣擦れの音、白粉と紅の艶やかさ、美酒の香り、畳の匂い・・ 舞妓や芸妓のやるせない吐息まで聞こえてきそうなほど、精緻で瑞々しい日本美が作品全体から立ちのぼっている。
さゆりの生き様が波乱万丈でありながら、同時に酷く凡庸に映るのは、人生を切り開いていくというよりも、与えられた人生を生き抜くという姿が描き込まれているからかもしれない。 そしてそのことこそが、古い日本の伝統社会を色濃く写し撮った証左となり、なんともいえずリアリティをもって迫ってくる所以なのかも。
抗うことのできない運命に呑み込まれ、もがき、浮き上がってきたしたたかさ、流れのままを受け入れていくしかない抑圧された身過ぎの中にひっそりと熟成された想いが、解き放たれることなく終息するような。 ハッピーエンドにもかかわらず、そんな感じがして・・ 不思議な余韻に包まれた。


さゆり 上さゆり 下
アーサー ゴールデン
文藝春秋 2004-12 (文庫)
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★★★
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