※ ネタバレご注意を ※

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | - |
黙阿弥オペラ / 井上ひさし
井上ひさしさんは、たくさんの評伝的戯曲をお書きになられているようで、本篇もその路線かと思う。 歌舞伎史に燦然と名を残すと同時に、江戸歌舞伎最後の狂言作者といわれる河竹黙阿弥の生きた明治初期を中心に、世の中の移り変わりに翻弄される人々を滑稽に描く。 コミカルなヴェールを被っているけれど、実は結構シリアスで、メッセージ性の強い作品という印象。
新富座でオペラ狂言を上演するしない、黙阿弥にオペラ狂言を書かせる書かせないというゴタゴタは、井上さんの創作なのだと思うけど、当時の新政府や守田勘弥あたりなら目論みかねないように思えてきて怖い。 それこそ猿回し狂言の権化のようで、ぞっとしない(というかぞっとする)のだけれど、庶民を置き去りにして、外国への体面のためにのみ企画されたオペラ狂言に象徴されるような、日本の(薄っぺらい)西洋化が闇雲に押し進められる中で、根付いていないものや拠り所のないものを入れ物だけ、うわべだけ真似して体裁を保とうとする新政府のやり方と現代日本社会とが、いつの間にかシンクロして見えてくるような仕掛け。 踊らされて、痛い目に遭ってしまう庶民の滑稽、悲哀、それでもへこたれない心意気や逞しさ、本当の西洋文化を学ぼうとする志しの萌芽も気持ちよい。
上流階級や海外の御歴々の鑑賞に堪え得る品格のある芝居だけを書けという、新政府の意向に逆らって、明治十四年に黙阿弥が「河内山と直侍」という、まさに庶民のための狂言を書き、大喝采で迎え入れられたことは、歴史背景に照らし合わせても、とても意義深いことなのだと思った。 日本人の魂に染み入るものを書き続けようとした黙阿弥の想いが胸を熱くする。
戯曲はちょっと読みにくそうで、今まで敬遠していたんだけど、意外にもテンポ良く読めたかも。江戸(東京)庶民の会話が生き生きと楽しかったせいかもしれない。ちょっと戯曲に踏み込む勇気が湧いてきたりして。特に文語調が厳しくてタジタジの泉鏡花は、戯曲から入ってみるのも手かもしれない?


黙阿弥オペラ
井上 ひさし
新潮社 1998-04 (文庫)
井上ひさしさんの作品いろいろ
★★★
| comments(0) | trackbacks(0) |
スポンサーサイト
| - | - |
C O M M E N T








トラックバック機能は終了しました。