狐罠 / 北森鴻
旗師・冬狐堂シリーズの1作目。 旗師というのは、店舗を持たず、在庫を抱えず、投機的な売買に力を入れる古物商のことであるらしい。 古美術業界を舞台にした殺人事件と30年前の贋作事件、目利き殺し(プロに贋作を掴ませる)のコン・ゲームが錯綜する、スリリングでハードなミステリ。
はじめは、自意識とプライドが鼻についてしまい、なんだかなぁ〜と思っていた主人公の陶子さんでしたが、だんだん手負いの狐へ向ける眼差しのようなものが胸の内に育っておりました。
古美術品の真贋と殺人を巡り、骨董屋、保険屋、贋作師、研究者、刑事など、一癖も二癖もある輩が駆け引きや罠の仕掛け合いで暗躍しますが、騙し騙されるが当たり前の古美術業界独特の倫理観が支配する磁場の空気を余すところなく伝えながら、必要以上にコテコテと人物を描かないので、スマートにスピード感を持って楽しめたと思う。
贋作ロマン♪ “真の天才贋作者は決して歴史に自分の名を刻まない”というレトリックに酔いしれてしまう。 ここまでくるともう、“偽”などという言葉を単純に当てはめてしまうことに戸惑うし、少なくとも“劣”ではあり得ない。 しかも“悪”ではあるかもしれないけれど、限りなく魅惑的な黒い魔力。 でも贋作に限らず、作者、ディーラー、収集家、研究家などの情熱や陰謀や怨念やもろもろが積み重なって、骨董品は時と共に生モノのようになってしまうのだなぁ〜 それこそ“付喪神”ぐらい宿っていそうな。 いや、それより怖いよ、骨董業界・・ 大部分、北森さんの創作によるところが大きいのでしょうけれど。
奇しくも前回読んだ「黙阿弥オペラ」では、明治初期の日本人が抱える西洋への歪な憧れが描かれていたけれど、本作ではその裏返しのように、日本人が自分達の培ってきた文化に対して如何に無知で無防備で無責任であったか、価値ある美術品の多くが二束三文で海外に流出してしまったことも、西洋人の横暴だと切り捨てられないのだということなどにも言及されていたり、漆器に魅せられたりと、古美術、骨董にまつわる蘊蓄のあれこれがとっても興味深かったです。 ウンチクタレモノ大好きなのです^^


狐罠
北森 鴻
講談社 2000-05 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★
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