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エロスに古文はよく似合う / 阿刀田高
阿刀田さんの古典鑑賞読本シリーズは何冊か手を出しているのだけれど、まいどまいど非常に面白い。 本書は今昔物語集読本。 ユーモラスでシニカルで、軽妙洒脱のお手本のような語り口。 癖になるわー。
今昔物語関連本はチョロチョロ漁っているので、何処かで一度は触れた話が多かったと思う。 千余話の収録数を誇るというけれど、作家さんの目に留まるのは、ほんの一部の選りすぐりということなのかしら?
後の作家さんが翻案を手懸けた作品がいろいろ紹介されていて、軽く挙げてみると、谷崎潤一郎の「少将滋幹の母」、堀辰雄の「曠野」、芥川龍之介の「好色」「偸盗」「運」「羅生門」「藪の中」などなど、原話のモチーフをどのように活かし、どのように心理を掬い取り、どのようにオリジナリティを加えて、現代人が読むに堪え得る文学へと昇華させたか等々、詳細に紐解いてくれるのでとても興味深く読めた。
しばしば脱線して、例えば“月にはうさぎがいる”という伝承の元となった天竺篇の中の逸話のところでは、月に纏わるアメリカやドイツの民話が紹介されたり(このドイツの民話が可愛い〜)、翻案ではないけれど原話を読んで想起させられる古今東西の佳篇を紹介したり、時事ネタ(当然ながらちょっと古いんだけどね;;)と絡めたり、バラエティに富んでいて飽きることがない。
一見ユーモラスな説話の中に、貴族社会の端々にひたひたと台頭し始めた武士の影を感じ取ったり、震旦篇の春秋時代の荒唐無稽な説話の中に、鉄の伝来のエピソードが潜んでいるかもしれない等々、ちょっとした裏読み的な薀蓄も冴えていて楽しい。
洗練された物語を紡がれる阿刀田さんは、今昔物語に関しても、小説性という観点で論じ、お書きになっていたと思う。 “小説”として読めばあまりに未熟で、はっきり言って面白くないと言明までされている。 “物語小説”の良き読者とはいえないかもしれないわたしにとっては、この荒削りで茫洋とした感じ、“小説”になる前の原石のような味わい深さが、端正な物語に匹敵するくらい好きなのだけれど・・ と、ちょっと小さな声で抵抗を試みたくもなったり。
貴賎の別を問わず、ありとあらゆる階層を網羅し、さらに当時の大和民族にとっては世界の全てであった、震旦(中国)、天竺(インド)の説話まで汲みいれて編纂された、この壮大だけれどごった煮のような説話集には、やはり激しく心惹かれてしまうのだ。


エロスに古文はよく似合う
阿刀田 高
角川書店 1988-10 (文庫)
最も人気のある阿刀田高作品
★★★
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