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絶えて櫻の / 斎藤雅子
絶えて桜の
斎藤 雅子
新潮社 1999-02
(単行本)


平安の初期、嵯峨院の崩御によって律令国家が憂愁の時を迎えていたものの、まだ摂関政治が確立されるまでには至らず、ちょうどその過渡期といった感じなんだろうか。
藤原一族による摂関政治の足場を固めようとしていた藤原良房が、他氏族を排除するためにめぐらせた謀略は熾烈を極め、天皇に代わり、最も権力のある人臣が世を治めるという政治体制に免疫がなかった当時の貴族たちが“世も末だ”と嘆き、戸惑い、怯え、怒り、宮廷内に殺伐とした政治不信が渦巻いていた様子が窺える。
本書はそんな時代を生きた在原業平の述懐とでもいいましょうか・・ 世を憂う思いに任せた恨み辛み節に読者は延々付き合わされることになる 笑;; 生まれながらのポエマー全開な資質、悩むのが大好きで、汚れたことが大嫌い、内なる世界に逃避し、甘美な感傷に耽溺し、永遠の青年のような青臭さ、その厭世的な偏向性がムンムンと匂い立ってくるような存在感を放つ在原業平像を生み出すことに成功してるなぁ〜という感じ。
承和の変と応天門の変、良房が仕掛けた2つの政変の罠に落ちた人々への憐憫に身を窶し、時代を嘆き、恋に情熱を捧げ、自分を責め、友情を育み、共に世を呪い、歌を詠み、またぼやき・・ 延々こんな感じ。 野心がないことを何よりの美徳とし、虚偽の密告者の役を買ったお父さんの阿保親王を蔑み、でも阿保親王が手を汚して敷いてくれたレールにちゃっかり乗っかってます。 良房に対する己の無力さを憐れんだり、憤ったりしているんだけれども、良房の大事な手駒の姫たちに次々と手をつけるというのは、本人気付いてなくても何気にこれはこれで十分すぎる嫌がらせですから;;
業平の一人称で語られているので、すべて業平が紡いだ文章という体裁になるわけなのだけれど、言葉が華美で装飾的で大仰で・・キャラにぴったりなんですよ。 まさに業平流。 凄いです。 この個性。
平安の歴史ものというと、権謀術数のど真ん中の暗闘を描いたものばかり読んでいた気がするので、無力ながら時代に逆らって、小さな声で正義を唱えたりしながら、ひそひそ蠢いていた窓際な貴族たちも、ちゃんといたんだよなぁ〜と思えて、少しほっとしたかも。
平安の都を震撼させた2つの政変、その余波に思わぬかたちで巻き込まれた人々の運命を解き明かしていくミステリのような部分もある。 ラストの出生の秘密は・・個人的には正直いらないと思ったよ。 そこまで業平を甘やかさなくてもよくね?
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