カスティリオーネの庭 / 中野美代子
清朝の乾隆帝の命を受けたイエズス会宣教師たちの設計によって、壮麗な離宮であった円明園の一角に増設されながらも、不幸な歴史を経て廃墟を晒す西洋楼、西洋庭園へのレクイエムのような物語。
ちょっと小説的な流れが悪いので読みにくいのですが、構成としては、最後の最後で急展開するようなミステリ仕立てになっていて楽しめますし、主人公のカスティリオーネも円明園も知らなかったわたし;;なのですが、あとがきを読む頃には胸がいっぱいになっていました。
ジュゼッペ・カスティリオーネは、宣教師として支那の地に渡り、宮廷画師として雍正帝、乾隆帝の5代、6代皇帝に仕え、その技術や知識を清朝に捧げ尽くしたイタリア人のイエズス会士。 柔軟でしたたかな名君として名高い乾隆帝の“生かさず殺さず”的な支配の巧みさの中で、個性を押さえつけられながら、絵画や建築に重用され続けたカスティリオーネが、異郷の地に没するまでの50年に成した“仕事”を史実に基づき、丹念に紹介していくと共に、彼の内なる叫びが静かに綴られていくのです。 個人の信仰の自由は認めるが、布教活動は許さないという方針の下で、宣教師にとっての根源的な使命について悩み続けながら、西洋画の特徴を否定した技法や、仏画のような構図さえ要求される屈辱に耐え続けた日々。 限界を試すが如くの数多の無理難題に対して、その要求に応え続けるという方法で、もしかすると彼なりに静かに戦っていたのではないかと・・皇帝とカスティリオーネの間には、信頼と憎しみが混じり合った、目に見えない攻防が展開されていたのではないかと・・なんだかそんな風に思えてきてしまいました。
宮廷に仕える仲間の宣教師たちと共に、長い歳月をかけて完成させた西洋庭園には、故郷への慕情や、その無垢な魂を愛した皇三子永璋への追憶など、誰も知りえないカスティリオーネの想いが、密やかに込められていました。
円明園は後に、第二次アヘン戦争で英仏軍に略奪、破壊され、その後も文化大革命などを経て、壊滅的に痛めつけられたといいます。 特に中華帝国のシステムの中で息衝く西洋楼、西洋庭園は、歴史の一時期に、ヨーロッパ人にとっても、中国人にとっても醜悪な遺物とみなされ、可哀想な運命を辿ったと、あとがきで著者の中野美代子さんは示唆しています。 そして、この作品によって、カスティリオーネと西洋庭園を追悼しているのだと感じます。


カスティリオーネの庭
中野 美代子
文藝春秋 1997-09 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★★
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