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世界の果てのビートルズ / ミカエル・ニエミ
世界の果てのビートルズ
ミカエル ニエミ
新潮社 2006-01
(単行本)
★★★

[岩本正恵 訳] スウェーデンの最北、北極圏の小さな村パヤラで生まれ育った著者の、幼年期、少年期の日々を描いた半自伝的小説。 スウェーデンっていったら福祉国家とか、家具やインテリアの洗練されたイメージしかなかったんだけど、いい意味で、思いっきり裏切ってくれます。
急激に豊かになり始めた60年代。 男女の役割がきちんと線引きされ、そこからはみ出すことを潔しとせず、一族の利権に繋がることが正義であると頑なに信じて揺るがない昔ながらの土着的な秩序と、未知なる世界をがむしゃらに求める若さとが、届き始めた物質主義の波に煽られ、最果ての大自然の中で科学反応を起こしているかのような・・ 粗野でエネルギッシュでタフで泥臭くて、傷ましくも可笑しい傷だらけの青春小説。
森の端に浮かぶ夏の夜の太陽、オーロラが棚引く冬の夜空、春の川に融け出す氷の轟音、森と湿地と雪の大地、スキーや橇が自転車感覚だったり、ぶっ倒れるまで続けられる飲み比べやサウナの我慢比べ、殴り合いの連鎖、婚礼のテーブルを彩る郷土料理・・ 豪胆で偏屈なパヤラという土地と暮らしの息吹が、隅々から迸る感じ。
主人公のマッティ少年が、ビートルズの音楽に触れた時の、世界が変わってしまうほどの衝撃、お酒を覚え、女の子を知り、世の中がどんどん刺激に充ち満ちていく思春期の暴走が、ビビットにズンズンと響いてくるのが気持ちいい。 ヘッタクソなバンド演奏や、ネズミ退治のアルバイトや・・青春のおバカな話に笑い転げながら、なんだか無性に沁みるんだよなぁ〜。 痛いほどに愛おしく、きらきらと、胸の奥深くに郷愁が沁み渡る。

<余談>
物語の最初の方で、5歳くらいのマッティが「世界には果てがあるの?」と聞くと、お父さんが「中国だな」と答える場面があって、なんだか忘れられないのです。 もちろん正しくはないし、笑い話みたいなんだけれど、この答えを聞いてマッティはすごく安心するんですよね。 最初から果ての無い世界へ放り出すのではなく、子供が成長の中で世界を知りながら、自分で身の丈に合った大きさに膨らませていけたら・・ それってサウナの中で、思春期のマッティにお父さんが語った“大人になるための話”にも通じるような気がして、明らかに“教育的”ではないのだけれど、正しいとか正しくないじゃなくて、親からあなん風な言葉をもらって育ったマッティが、なんだか少し羨ましかったのです。
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