霧のむこうに住みたい / 須賀敦子
一度に読んでしまうのが勿体ない・・ 本書は、須賀さんが亡くなられた後に単行本未収録作品をまとめた掌編エッセイ集。 日本語の美しさがまたとない奇跡的な輝きを放ったかのような、磨き抜かれた言葉で綴られる上質な文体、本来の深い眼差しや静けさをそのままに、時に掌編らしいウィットで軽やかなリズムも加味されています。 言葉によって紡がれる世界の豊かさに、ただもう僕となって平伏さんばかりのわたし。 他愛のない一場面から迸る馥郁たる芳香といったら・・ 簡潔な文章のうしろにどれだけの風景が広がっていることか。
小さなエピソード、心を奪われた本、街の風景、愛用の品々、イタリアの伝統行事などの点々とした記憶の原石が、大切な人々との絆と共に磨き込まれ、いつの間にか須賀さんの辿った軌跡を繋ぎ合わせて見せてくれる。 そんなしなやかな魔法の虜になってしまう。
この作品集には、イタリアの街々が、どんなに須賀さんを魅了したかを描いた場面がたくさん登場し、抑制された筆致から止め処なく溢れ出す、生き生きと伸びやかな情景が印象深かったです。
それと本について。 ナタリア・ギンズブルグの「ある家族の会話」や、アントニオ・タブッキの「遠い水平線」、マルグリット・デュラスの「北の愛人」など。 作家や作品世界をめぐる衒いのない真摯な思索に寄り添えることも大きな悦びのひとつ。
解説は江國香織さん。 そうと知らずに手にしたので、思いがけない嬉しいオマケでした。 江國さんが須賀さんの醸し出す空気と響き合うであろうことは容易に想像がついてしまいます。 「ある家族の会話」は、江國さんにとっても深く心に刻まれた一冊なのだとか。 
須賀さんがクロスワードマニアだったということを初めて知りました。 言葉に対してとってもストイックな須賀さんらしいなぁ〜と思え、なんだか感慨深いです。 かっちりと言葉の嵌った枡目の前で、瞳を輝かせている姿を想像できることは、これもまたわたしの悦び・・
あと是非とも書き残しておきたいのは、うじ虫に纏わる想い出が2篇入ってるんだけど、これがなんと須賀さんの手にかかると、詩的になってしまうんです。 うじ虫までもが。 しかも微笑ましくみえてくるんですよ。 ほんと・・うじ虫の可愛らしい描写が忘れられません。 こんな結びでいいのかっ!


霧のむこうに住みたい
須賀 敦子
河出書房新社 2003-03 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★★
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