一の富 / 松井今朝子
[副題:並木拍子郎種取帳] このシリーズ、江戸っ子好みの掛詞風に、一、二、三、四・・と順に数字の入った言葉をタイトルに冠しているので、本書が一作目とすぐにわかります^^ 歌舞伎の人気狂言作家である並木五瓶と、そこへ弟子入りした変わり種、町方同心の次男坊の並木拍子郎コンビが活躍する捕物連作集。
時は文化年間。 当節、大時代的な台本は流行らずに、昨今の世相を細やかに写し取る世話物狂言が人気のご時世。 もっぱら拍子郎のお役目は、江戸市中で芝居のネタになりそうな噂話を拾い集めて師匠の五瓶に報告すること。
第一話目からして拍子郎の種取帳は、目出度く五瓶の狂言作りに結びついて大当たりを取っている。 いくら五瓶と今朝子さんの才覚を以ってしても、これでは瞬く間にネタが尽きてしまうではないか? と心配してしまったが、どうやら記念すべき一話目はご祝儀作品(?)であった様子。 二話目以降は、史実との絡みなどはあまり顔を覗かせず、純粋に時代小説としての読み物空間が広がっていく感じ。
主人公の拍子郎は、家柄の血が騒ぐのだろうか、ネタ拾いをしていたはずが、何時の間にか怪事件の深部へと踏み込んでしまい、事件解決に一役買うことになるというパターン。 存外にハードボイルドな見せ場も披露する^^ 作者見習いらしい旺盛な好奇心と町方同心譲りの正義感を持ち合わせる拍子郎は、町人と武士、芝居町と八丁堀の狭間で揺れ動く微妙な心を抱えていて、どこか捉え処がなく飄々とした風情。 芝居町の料理屋の娘・おあさは、時に猿股袢纏の男装で町を闊歩する男勝りなバラガキ娘ながら、拍子郎にそっと思いを寄せている。 上方から江戸へ下ってきた五瓶は、押し出しの良さや、ねちっこさ的な上方文化が染み着いているので、なにかと江戸っ子のサバサバし過ぎたところや、いざとなると気弱げなところがもどかしくてならない様子。 若い2人をヤキモキしながら見守っている。
・・といった感じの大きな緩やかな流れが微笑ましく、短篇毎には殺人事件など起きているんだけど、あまりシリアスになり過ぎることもなくて読み易く、二作目、三作目と追って行きたくなります。 そしてやはり、背景となる芝居町の細やかな風趣が、しっかりと物語を支えています。

<追記>
本作品に登場する並木五瓶は実在の人物ですが、「東洲しゃらくさし」で、その人と成りが詳しく語られていますので、合わせて読むとより楽しめます。


一の富 −並木拍子郎種取帳−
松井 今朝子
角川春樹事務所 2004-06 (文庫)
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