絵島疑獄 / 杉本苑子
江戸後期の歌舞伎ものを読んでいると、チラチラっと顔を出す幻の山村座と絵島生島事件。 ずっと気になっていて、いつか読みたいと思っていました。 江戸中期、絵島を筆頭とした大奥女中と人気歌舞伎役者の生島新五郎らのスキャンダルを理由に、木挽町にあった山村座がお取り潰しとなり、以降、江戸歌舞伎が四座から三座になったという話は、歌舞伎史として聞きかじっていた程度の知識でしたが、もっと個人的な不義密通みたいな話なのかと激しく勘違いしていました(恥;;) これはもう、いっそクーデターのような政争事件の様相です。
改革断行以前の大奥。 元禄文化の名残りをとどめた、奢侈にしてドロドロな大奥の時代ですね。 後期の町人文化に馴染んでいる身には、やや尻込みしていた方面なのですが、全然イケちゃいました^^; ていうか、なんだか陰謀術数の渦、私怨や欲望が暴走する平安ものを読んでるような気分になってたかも。 しかも、これは杉本さんの考察ということになるのかもしれないけど、藤原北家の子孫が暗躍してるじゃないですかっ! なんという強力な腹黒遺伝子!
歴代中、稀にみる清廉な将軍と称えられながら、身体の弱さが惜しまれた六代将軍家宣と忘れ形見の幼い七代将軍家継の治世、その側近として知遇された新井白石らによる理想に燃えた短い一時代の幕開けから終焉まで。 まるで絵島生島事件の中に、五代綱吉から八代吉宗へと連なる時代の流れが、凝縮されているかのように感じさせられる見事な組み立て。 正室と側室、尾張家と紀州家、白石と官学の権威であった林家の対立、反目、暗闘・・ 保守派の幕臣たちの根深い不満など、様々に蠢く意趣が、表向きは風紀の粛清という隠れ蓑の下で、共通の利益へ向かって密やかに結集されたからこそ、連坐者一千五百人に及ぶ、大胆不敵な大量処罰事件が起こり得たとする説得力は非常に有効で、すとんと胸に落ちました。 弱い立場の芝居関係者たちが痛めつけられ、浅はかな大奥女中たちが足を掬われ罠に落とされ、その上に築きあげようとする正義。 勝ったものの言い分が正史となるという歴史の常套に、理路整然と待ったをかける本書の格好よさが素敵でした。
余談なんですが。 家宣ってあまり有名じゃない将軍・・ですか?(←無知;;) でも数奇な出生といい、運命の変転といい、不当な冷遇といい、絵になるというか、美味しい素材っぽくないですか? 杉本さんのフィクションなのか分かりませんが、20代から30代の下積み時代には、お忍びで江戸市中を歩きまわり、見聞を広め、世情に通じ、新井白石や間部詮房を見出し深い絆を育み、町娘だったお喜代の方と恋に落ち、その間、綱吉の放つ刺客に脅かされ、そっと見守る家臣たちに助けられ・・って、いい感じじゃないですか♪ 確かに将軍になってからは薄命ですが、その儚さ無常さも逆に光を放ってるっつうか^^; で、わたしめ、俄かに家宣にハマってしまって、若き日の彼を主人公にした、キラキラっとしたエンタメっぽい話とか、誰か書いてないかなぁ〜と思って探したんですが、見つかりませんねぇ。 誰か書いてくれないかなぁ〜。


絵島疑獄 上絵島疑獄 下
杉本 苑子
講談社 1986-11 (文庫)
杉本苑子さんの作品いろいろ
★★★★
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