カブキの日 / 小林恭二
琵琶湖畔の巨大なカブキ劇場・世界座での、年に一度の盛大なお祭りである顔見世興業当日。 カブキの神様が何かを起こします・・
舞台はパラレルワールドな現代なのだけれど、江戸が純粋培養で進化したような不思議な世界で、虚実隣り合わせで当たり前に混在している感じとか、現代人なのに江戸っ子の直系であるかの如きエキセントリックな風趣、情趣が充ち満ちていて、ハートを鷲掴みにされました♪ 歌舞伎の舞台が立体的に広がっているかのような、一種テーマパーク的“世界”と、そこに織り込まれた伝統と改革がせめぎ合う“趣向”というスタイルそのものが、歌舞伎の世界を体現しているかのようで、混沌と秩序、猥雑さと荘厳さ、生と死へのベクトルが溶け合い、洒落や粋や様式美の奏でるハーモニーがそこはかとなく立ち込めていて、ワクワクしっぱなしでした。
世界座の三階フロア(楽屋)探検の場面がいい♪ なんだか、スティーヴン・ミルハウザーの「マーティン・ドレスラーの夢」を彷彿とさせるような魅惑の迷宮で、名代下や裏方が住み着く入口付近から“悪の巣窟”といわれる異空間がひたひたと無限の広がりをみせる。 表と裏があり、裏の中にはさらに表と裏があり、その裏の中にもさらなる表と裏があり・・って、果てしなく裏を辿って深部の闇へと連なるダンジョンをもっともっとさ迷ってみたくなること請け合いです。
でも、それよりなによりわたしはもう、終盤の、狂乱の坩堝と化した役者と見物の対峙の場面が圧巻で。 このノリは江戸でしょ! もう、ここは江戸よ! 間違いないわ! って、身の内に沸々と熱いものが込み上げてしまったのだけれど、この江戸っ子魂が炸裂している根底には、明治以降の守旧派と改革派の争議の歴史に根差した、カブキ界の未来をかけた攻防が渦巻いていて、それなのに、まるで今まさに“伝統”が生まれる瞬間の原風景を見ているかのような感覚に捕らわれ、身体が痺れました。


カブキの日
小林 恭二
新潮社 2002-06 (文庫)
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★★★★
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