戯作者銘々伝 / 井上ひさし
黄表紙、洒落本、滑稽本、人情本、合巻など草双紙や読本の数々を江戸の世に送り出し続けた戯作者たちの生態を諧謔心たっぷりに描いた短編集。 12篇の表題がそれぞれ戯作者の名前になっているのですが知っているのは式亭三馬、山東京伝、恋川春町だけでした。 滝沢馬琴や十返舎一九や為永春水や大田南畝や・・ビッグネームが入ってないのは何故? と訝ったんだけど(唐来参和や芝全交や烏亭焉馬が著名人であることは後でしりました;;)、読んでいるうちに段々と納得がいくというか。
例えば「鼻山人」では、作者評判記に“盗作多し”と書かれてしまった当たり作のない戯作者からみた為永春水像が描かれ、春水が御上より咎手鎖のお裁きを受けるに至った経緯が物語られたり、「半返舎一朱」では、十返舎一九没後、二世一九を名乗る者が2人いたという史実の裏にはこんな悶着があったとか、「烏亭焉馬」では、平賀源内が殺人を犯して獄死したという事件の真相秘話が物語られたり、「式亭三馬」では、何かと比較されることの多かった滝沢馬琴との対比が、「恋川春町」では、無二の親友と言われた朋誠堂喜三二との友情が一筋縄ではいかない絶妙な切り口で描かれていたり・・ などなど、万事こんな具合で、内容としては結局のところビックネームが網羅されんばかりの勢いで、非常に充実感のある短篇集でした。
どこまでが嘘か真か。 戯作史ミステリみたいな趣向なんでしょうか。 わたしはとても読み尽くせませんでしたが、史実に対して限りなく細やかな目配りがなされているようで、通である程、いちいちに唸らされて、なかなか先へ進めないんじゃなかろうかと。 登場人物たちの一人称の語り調は、講談のように歯切れがよいし、ストーリーもラストは必ずオチがつくというお約束。 また戯作に纏わる裏話もてんこもり。 どこまでも小咄の楽しさが追及されていて、あっと驚いたり、にやっとさせられたり、ほろっとさせられたり、いやぁー面白かったです。
そして面白さの中に、それぞれの戯作者の人物像が自ずと立ち現われてきたり、戯作という茶番の持つ魅力や醍醐味や社会の中での確固たる役割が透けて見えてくる仕掛け。 流石です。
幕末の戯作者(あまり有名ではないみたい?)を描いた「松亭金水」が人物として一番魅力的だったなぁ。 おそらく井上ひさしさんご自身が、この作者に惹かれるものを感じていらっしゃるんじゃないかしら。
寛政の改革で、松平定信によって自害に追い込まれたとも、殺されたともいわれている恋川春町には、こんな台詞を語らせています。
世間の動きにチクリと滑稽の針を突き立てて撓みがあればそれを正す、歪みがあればそれを笑いのうちに直す、これが黄表紙というものの生命ではないか。おれは書く。


戯作者銘々伝
井上 ひさし
筑摩書房 1999-05 (文庫)
井上ひさしさんの作品いろいろ
★★★
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