すいかの匂い / 江國香織
少女だった夏の日の追憶の物語11篇。五感というものが、どれだけ眠ってる記憶を呼び覚ますか・・痛いくらい思い出させてくれる。言葉にできない感覚を、なんでもないことのように淡々と繋ぎとめてくれる江國さんの無造作の妙・・この作品集でも堪能できるのだけれど、でもむしろ、セピアの背景にさっと朱をはいたような鮮烈さ、どきっとするような生々しさが深く心に刻まれる短編群で、わたしのイメージする江國作品にしては、かなりビビッドな印象を残す一冊です。そして好きです。
不安定ゆえの鋭敏な感受性。此処ではない何処か、自分ではない誰かに恐る恐る手をのばさずにはいられない無垢な危うい衝動によって手にした後ろめたいざわめきは、少女が少女であるための刻印のようですらあり、噎せ返るほどの草いきれ、夏の虫たちの儚く切実な生の営み、かつて宝物であったはずの些末なあれこれらと共に、やがて甘い痛みとなって心の奥深くに眠り続けるのでしょうか。やるせないほどノスタルジックで、訳もなく泣きたくなってしまう。
最初読んだ時は「ジャミパン」が一番好きでした。2回目は「海辺の町」。今回は「焼却炉」のキリキリするほどの切なさにやられました。また数年後に読み返したら、一番のお気に入りが変わっているのかも。


すいかの匂い
江國 香織
新潮社 2000-06 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★★
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