村田エフェンディ滞土録 / 梨木香歩
東と西が交差し重なり合うが如き国、土耳古(トルコ)のスタンブール。20世紀前夜、歴史文化研究のため、彼の国に招聘された日本人青年の土耳古滞在記。
英国人のディクソン夫人が営む学術関係者の宿舎に身を寄せることとなった日本人留学生の村田。独逸(ドイツ)人考古学者のオットー、発掘品の調査鑑定に携わる希臘(ギリシャ)人のディミィトリス、下男として働く土耳古人のムハンマド、そしてムハンマドが拾った一羽の鸚鵡と生活を共にすることに。同居人たちとの伸びやかな異文化交流が、端整な筆致でゆったりと爽やかに綴られてゆきます。
キリスト教、回教、ギリシャ正教、仏教・・異教徒たちの集うサロンのような住み家。宗教間に波立つ小さな反目は固より、時にヨーロッパ列強と脅かされるアジア、時に一神教と多神教、時に宗教と自然科学など、価値観、世界観の違いや時代背景によって生み落とされる様々な角度からの問題提起。話に耳を傾け、言葉を交わし合い、理解できなくても受け入れようとする想いが、彼らの共同生活を豊穣で潤いのあるものに引き上げているかのようです。そしてある意味、同居人たちの要となるのが妙に含蓄のある一言を放つ鸚鵡なんです^^
遺物の再利用があちらこちらに見られる建築物の片隅には、ビザンティンの衛兵や、古の原始の神々の亡霊がひっそりと棲息しているのも“そんなこともあろうな”と寛容に構える人々・・異教徒たちの夢の跡に身を置いて、雄大な時の流れと栄枯盛衰に想いを馳せたくなると同時に、夜明け前と夕刻に流れるエザンの音色、多種多様な人種の行き交う雑駁な町並みなど、エキゾチックな風景にしみじみと浸ってしまいます。
ずっとこのままで・・わたしの願いと裏腹に、やがて動乱、戦乱の足音が近づいてきます。終盤の劇的な急展開には、読んでいて、ただもうひたすらおろおろと途方に暮れて、悲しみが押し寄せ心乱れるばかり・・ 青年トルコ人革命、第一次世界大戦・・否応なく歴史の渦に呑まれていく宿舎の仲間たち。“虫が好かない”ディミィトリスを探しにサロニカに旅立つムハンマド、常々その言動に眉根を寄せていたオットーを“私のやんちゃな坊や”と形容するディクソン夫人、そして遠い地の彼らの消息を祈る思いで聞き届ける村田。二度と帰らぬかけがえのない日々に・・国家、民族、人種を越えた人と人との絆の物語に涙せずにはいられない作品です。

<追記>
家守綺譚」の姉妹編にあたる本書。主人公の村田は、綿貫征四郎の友人なんです。「家守綺譚」でも土耳古の村田から綿貫の元に手紙が届いたりしていましたが、帰国後の村田が綿貫の下宿先に転がり込むとこになるという後日談が本書で明かされていて一興を誘います。この2作品は、わたしの秘蔵っ子♪


村田エフェンディ滞土録
梨木 香歩
角川書店 2007-05 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★★
| comments(4) | trackbacks(1) |
C O M M E N T
こんばんは☆ この本は大好きで大好きでたまりません。『家守綺譚』とセットで好きですが、『エフェンディ』は好きなだけではなく、私にとって特別な本なのです。
最後はぼろぼろと泣いてしまいました。色褪せた鸚鵡の姿に、なんともいえない郷愁と喪失感に襲われるのです。
贈り物としてもよく使うので、本屋さんで何冊も買って驚かれたことがあります。
| 香桑 | 2008/12/02 |

こんばんわ♪
香桑さんのレビューを読んでいて、思い入れの深さが伝わってくるようで、わたしまで嬉しくなってしまいました^^
村田と鸚鵡がラストの場面で交わすやりとり。素晴らし過ぎますね!
思い出すだけで、熱いものが込み上げてきちゃいます。
そっかー、贈り物に頂いたら嬉しい本ですね。
「家守綺譚」とセットで、わたしも誰かに贈りたくなってきました〜
| susu | 2008/12/03 |

もしよければ、もう一度、TBを試してみていただけませんか?
お返しならOKという場合もありますので……。
よろしくお願いいたします。
| 香桑 | 2008/12/03 |

残念ながら失敗ですぅ。
送り方を間違えてるなどという間抜けなオチではないと思うのですが;
サーバ同士の相性とかあるのでしょうか。
面倒臭いヤツですみません。
また折りをみて、今度は新しめの記事へもチャレンジさせていただきますね。
| susu | 2008/12/04 |









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村田エフェンディ滞土録
 梨木香穂 2007 角川文庫 否応なく、時代も距離も隔たった、戦争の世紀の初頭
| 香桑の読書室 | 2008/12/02 |