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実さえ花さえ / 朝井まかて
実さえ花さえ
朝井 まかて
講談社 2008-10
(単行本)
★★★★

種苗を扱う“なずな屋”は、向嶋にひっそりと開いた小体の店。 切り盛りするのは、育種の腕を磨いた花師の新次と女房のおりんの若夫婦。 樹木や草花と人々の想いが交差し、寛政期の江戸の町を切なく温かく包みこむ。
ほんとに新人作家さん? 上手過ぎるのが心配なくらいだ。(大きなお世話だ)
夫婦、親子、友人、恋人・・ ほろ苦い人間模様を写しとる確かさも秀逸だし、それだけではなく、植物と鳥や蝶、人間とが共に生き共に育んだ時間の流れがゆったりと染み込んでいて。 胸の中でいつまでも転がして慈しんでいたくなるような作品。
本草学が盛んになって育種技術が飛躍的に高まったという江戸時代。 変化朝顔に狂奔する姿は有名だけれど、総じて江戸っ子が大の花好きだったことが、ひしひしと伝わったくる話だったなぁ。
“あとは野となれ山となれ”という言葉は、人事を尽くして天命を待とうという生き方を象徴していたり、時にはちょっと投げやりな響きに感じないこともないのだけれど、最後の最後には全てを預けられる拠りどころとしての豊かな自然環境がなければ決して生まれ得ない言葉なんだな。 野山に甘えてるといってもいい。 日本の土地の四季の恵みが育んだ言葉。 バックボーンの深さを思い知って、自分はそこにハッとされられてしまったんだけれど、人それぞれの感じ取る心に合わせて、自然からのいろんなメッセージが受け取れるんじゃないかな。
“花競べ”の催し、隅田川堤の花見遊山、吉原の夜桜見物など、華やかでうっとりするような情景が活写され、その奥には“自然天然と人の技が呼応し合うぎりぎりの美しさ”を求める職人魂が垣間見えてじんわりと、いい。
それから最後は染井吉野秘話にもなっていて。 哀しい異形の桜・・だからこその美しさも、ある。 あぁ〜だめだ。今度、染井吉野を見たら涙出そう。 お爺ちゃんかよぅ;;
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