茗荷谷の猫 / 木内昇
初めて読む作家さん。風情があってコクがあって良いお味でした♪ 植木職人たちが新種造りのロマンを追いかけていたころの染井村(今の駒込・巣鴨あたり)であったり、本郷、茗荷谷といった、昭和初期の文豪たちが愛した街であったり、終戦後の闇市で暗い賑わいをみせた池袋であったり・・ 東京の(昔の)山の手を中心に、集落や住宅街を舞台にした9篇から成る短篇集。
江戸末期から昭和30年代まで、一篇ずつゆっくりと時を下って描かれる中に、時代を象徴するようなモノや場所や人物などが織り交ぜられていて、そこに暮らす市井の人々の哀愁がさざめいていました。
物語は少しずつ、ふとしたところで地続きになっていて、名もなき人々が刻んだ足跡を辿り、そんな人々が繋いできた名もなき歴史を追っていくかのような密やかな誘いもあったように思います。なんだか太平洋戦争前夜に浅草の映画館の片隅で、映画に未来を託していたあの青年が、監督となって届けてくれたオムニバス映画を観ているような錯覚に陥り、ちょっぴりセンチになりました。凄みのある笑いや滑稽な憐れみの中に、しんみりとした情趣が息衝いていて。
基本は短篇集なんだけど、読み進むに連れて、街や人の交叉が立体的になってゆき、過去の物語がどんどん深みを増していくという不思議な感覚を味わいました。あの人やあの場所がこんなところに! みたいな細部に渡る仕掛けの楽しさや、もしやこの人は? みたいに詳らかにされない余白の魅力は、エンタメ的なお遊びに留まることがなく、骨太な物語に匂やかな陰影を刻んでいました。


茗荷谷の猫
木内 昇
平凡社 2008-09 (単行本)
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★★★★
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