ヒヤシンス・ブルーの少女 / スーザン・ヴリーランド
[長野きよみ 訳] 所在がわからなくなっているフェルメール作品とおぼしき、一枚の少女の肖像画をめぐる8話の短篇集。 現在から始まって、一篇ごとに過去へ遡りながら、やがて絵が生まれる原風景へと至るまで、三百年余の変遷、軌跡を逆に辿っていくリレー形式の物語集です。
最後の2話で、モデルになった人物と画家の想いが対になって描かれることにより、その真贋が明らかにされるという趣向なんですが、ほんとに“ヒヤシンス・ブルーの少女”という一枚の絵画が、この世の何処かにひっそり存在しているんじゃないかと、ロマンを掻き立てられてしまう作品でした。 因みに表紙の絵はフェルメールの名作“真珠の耳飾りの少女”です。
1話目の現代アメリカに暮らすドイツ系数学教師の物語を皮切りに、ナチスドイツ占領時のアムステルダムに暮らすユダヤ系オランダ人家族、ナポレオン支配下のオランダにやってきたフランス人貴族の妻、歴史的大洪水に見舞われた18世紀初頭を生きる農夫の妻・・ 時代と所有者を転々としながらも、一枚の知られざる名画と共にあった人々の人生の断片が、神聖な光の帯のように繋がって、響き合っているかのようでした。
生きることの厳しさ、不毛さ、罪深さ・・どの主人公も決して幸せとは言えないし、日々の生活に根ざした地味な風景が、どちらかというと淡々と描かれていくんですけれど、人々が、芸術作品と向かい合った瞬間に迸る精神の輝きを鮮明に写し取る確かさで貫かれているような印象でした。 疲れて渇いた暮らしの底に秘められた瑞々しさや強い想いが、一枚の絵画に呼応して、真珠のような光沢を帯び、静かに物語を覆っていくかのような・・ 
時代のフォーマリティに合わせて構築される世界は、どれも自然な気配のままに感じられましたし、ヒヤシンスやデルフト焼の青の彩度、白と黒の市松模様のタイル張りの床、開いた窓から差し込む陽光・・さり気なく散りばめられたフェルメール的モチーフが本当に美しかったです。


ヒヤシンス・ブルーの少女
スーザン ヴリーランド
早川書房 2002-06 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★★
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