存在の耐えられない軽さ / ミラン・クンデラ
[千野栄一 訳] プラハの春を経て、ソ連の介入により抑圧された政治体制下を生きたチェコ人の群像を冷然と描きつつ、思想・哲学の深い泉に読者を導き、考えさせ、幻惑させ、共鳴させ、打ち震わせる、途轍もないパワーを宿した小説でした。 強いられた生命の向こう側にあるもの、命令法から解き放たれた精神を希求する彷徨い人たちのような・・ 動物と安楽死についての考え方(犬が死を望んでいるという“人間の”判断)が、あまりに西洋的思想過ぎて、戸惑い以上のものを抱きましたが、それも全てひっくるめて、いろんな楔を打ち込まれました。
著者と思しき三人称の語り手に委ねられ、どの登場人物からも均等に距離を置いたシビアな視点に準じて描かれていく作品です。メタフィクション的な知的遊戯の優雅さを備え、どこか音楽めいたものを感じさせる美しさで織り上げられていくテクスチャー。ある恋愛の形の実例をあげていくかのようなテクニカル的な趣向で、楽園を追われた人間という生き物の性を多角的に痛烈に描き込んでいきます。
過ぎ去っていく刹那の軽さ、意味を求めることの不毛、裏切り続けることでしか表現し得ない必然への抵抗、本質的に受け入れ難いものを除外することの俗悪さ、どんな善良さも観客を必要とすることでしか存在しえないアイロニー、信じることの滑稽さ、人間の性に属する醜いものへの許容・・
そして、人間を人間たらしめる愚かさゆえの深い哀惜・・なんて。そんなものがほんとうに描かれていたかどうか自信はありません。そう感じたいと願うわたしの幻想にすぎないのかもしれません。掴んだ途端にすり抜けて、二度と再び廻り来ない泡沫の一生。だから人は小説を書き、小説を読むのかもしれません。果てしない思索の旅路に投げ出されてしまうのだけれど、読み終えて今、心地よい充足感と疲労感で満たされています。


存在の耐えられない軽さ
ミラン クンデラ
集英社 1998-11 (文庫)
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★★★★
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C O M M E N T
susuさん、すごいっ!
うわー。この本、読まれたんですね。
学生時代に観た映画が忘れられず、本は買ったものの、積読山の裾野に埋もれきっています。
クンデラでちゃんと読んだのは短編集の「笑いと忘却の書」だけですが、何とも言えない迫力が印象に残っています。
| 香桑 | 2009/05/20 |

香桑さん、こんばんわ。
映画、ご覧になってるんですねー。
わたし、映画の方は観てないので、逆に観たくなりました。
積読仲間でしたか^^ わたしもかなり裾野らへんから掘り出したのです。
地面にめり込みそうだったので救出しました。
悠久の時の彼方で、恩師にお勧めされていた一冊なのです。
最近、ブンガク脳になっていないので、ちょっと心配だったのですが、
読んでみて本当によかったです!
調子に乗って、「笑いと忘却の書」にも手を出したいところなんですが、
積読山消化プロジェクトを優先中なので、いつ実現できるかなぁ〜〜。
「微笑を誘う愛の物語」「冗談」なども気になっています・・
でも、クンデラ、また読みますよ! 絶対♪
| susu | 2009/05/21 |









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