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恋紅 / 皆川博子
文章が美しい。 そしてところどころに描かれる染井吉野の情景が、読み終えてからよりいっそうに甘美な余韻となって残ることに気づく。 物語の中に吸い込まれる感覚・・凄い吸引力だった。 吉原の遊女屋の娘と小芝居役者の恋をさらりと描く。 なのに2人の息遣いまで聞こえてきそうなほどに深く響いてくる。 生々しい筆致ではないのに、生娘から“女”になる主人公ゆうのなんと官能的だったことか。 ゆうがただ伸びやかに呼吸できる居場所を追い求め、福之助が心底芝居が好きだから、2人の苦労はどこか・・幸せそうに映る。 続編「散りしきる花」で、その後の2人は、どんな風に描かれるのだろう。
この作品には、実在する歌舞伎役者の三世澤村田之助が、福之助とゆうの目線から描かれており、彼の壮絶な生き様の一端を垣間見ることになる。 皆川さんは田之助を主役にした「花闇」という作品を発表されているらしい。 俄然読みたい。
幕末から明治維新にかけての動乱の様子、特に文化面の混乱や変転の様子が、遊郭や芝居小屋を通して細密に描き込まれ、それはもう、ゆうと福之助を引き立てる背景などに納まるものではなかった。
このごろの東京の芝居は、守田勘弥と九世団十郎が中心になって、芝居の絵空事や荒唐無稽をとりのぞき、それといっしょに毒っ気や洒落っ気もぬきとられた、固苦しい史実にのっとったものばかりが高く認められる風潮だそうだ。でも、史実の“実”とは何だろう。絵空事や荒唐無稽でなくてはあらわせぬ真実もあるのだ。そうして、また、人の心の奥にひそむ魑魅は、舞台の魑魅に誘いだされ、日常では許されぬ魔宴をともにし、いっとき堪能し慰められて、また闇の眠りに帰ってゆくのだけれど・・・


恋紅
皆川 博子
新潮社 1989-04 (文庫)
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★★★★★
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