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カレワラ物語 / キルスティ・マキネン
カレワラ物語
− フィンランドの国民叙事詩 −

キルスティ マキネン
春風社 2005-05
(単行本)
★★★

[副題:フィンランドの国民叙事詩][荒牧和子 訳] 19世紀、エリアス・ロンロートは、フィンランドの東部からロシア領内に至る地域を巡り、吟遊詩人から数多の口承歌謡を集め、組み合わせて編纂し、創作を加え、フィンランドが世界に誇る民族叙事詩「Kalevala」を著わしました。
その中から主軸を抜粋し、読み易い散文調で焼き直したのが本書。 原典は韻律調かつ一大長編、と来れば尻込みしてしまいますので、手に取り易い本書と出会えて嬉しかったです。
キリスト教以前、フィンランドの大地に、サンポの欠片による恵みと、音楽の悦びをもたらした魔術師たちの伝説です。 寒い国の豊かな自然の中に息衝く物語。 森と海と澄んだ冷たい空気が、ふと肌に触れそうです。
創世記神話に始まり、カレワラの勇者たちの求婚にまつわるエピソードが少しずつ絡まり合いながら描かれ、後半はポポヨラとの戦い(殆ど魔法合戦!)、そして終盤は、なんと、異教からキリスト教への国譲りみたいな展開になっています。 この部分はロンロートの創作ということになるんでしょうか? 著された時代背景が垣間見えて興味深かったですし、他国の支配下での歴史が長かったというフィンランドにとって「Kalevala」は、民族への想いの結晶のように誕生し、慈しまれてきた作品なのだと知り、心揺さぶられるものがありました。
大気の乙女イルマタルの胎内に700年も籠っていたので、生まれた時は既に年を取っていたという老賢者のヴァイナモイネンが主役。 年甲斐もなく若い乙女に接近しては、いつも冷たくあしらわれてしまいます。 でもカンテレの名演奏では、森羅万象を酔わせてしまうし、偉大な魔術師でもあって、いいお爺ちゃんなんですよ。
準主役のうちの1人は、鍛冶屋のイルマリネン。 腕のいい職人さんで、永遠の幸運をもたらすといわれる“サンポ”という道具を作り出すことに成功するんですが、それがもとで、後にポポヨラの魔女ロウヒと攻防戦を繰り広げることに。 可哀そうなヴァイナモイネンに、自作のダッチワイフ(?)をプレゼントしようとする章があって、あそこは爆笑しちゃいました
そしてもう1人は、漁師のレンミンカイネン。 “死んでも治らない”を地でいく阿呆キャラです。 無鉄砲で軽薄な男前野郎ってなもんで。 “起源を明らかにすることで魔力が弱まり道が開ける”というパターンが、物語の中に多用されているんですが、レンミンカイネンが語る蛇の起源は・・ ほんとにあれでいいんでしょうかねぇ^^;
みんな憎めないのです。 いい味出しまくりで。 概ね心地よい可笑しみに包まれながら英雄譚が展開されていくのですが、勇者たちが求婚していたポポヨラの乙女の末路に関連して語られるクッレルヴォの破滅的な逸話が、ひときわ凄みを放っていて。 この深い慟哭が滋味を生み、作品を引き締めているようにも感じられました。
そして、ヴァイナモイネンが舞台を去るラストは、こんなにコンパクトにまとめられた物語なのにグッときてしまって・・ 胸を震わせました。
ヴァイナモイネンは今も、フィンランドを見守っていてくれてますね。 きっと。
| comments(2) | - |
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C O M M E N T
はじめまして。
しばらく前から拝見しております。

私も〈カレワラ〉大好きです。
岩波文庫から以前刊行されていた叙事詩タイプのものもいいですよ。
入手は難しいかもしれませんが,
図書館なら案外ありますので是非是非。
| 森山樹 | 2009/06/11 |

森山樹さん、はじめまして。
声をかけてくださり、ありがとうございます。

わぁ、岩波版、お読みになってるのですね!
読みこなせるかどうか自信がなくて、
横目でチラチラと窺っておりました。
やはり俄然、叙情豊かな世界が広がっているのでしょうねぇ・・

今回、初めて手に取ってみて、すっかり魅了されてしまい、
チャレンジしちゃおうかな? という気分にもなってきています^^
| susu | 2009/06/11 |