怖い絵 / 中野京子
16世紀から20世紀の名画20作品を取り上げ、絵画に内在する恐怖を探る試み。 解説がよかったです。 主観的に踏み込んだ部分も含めて、解説者の感性が自分の肌に合うというのは嬉しい体験です。 恐怖といっても色メガネ的な味付けではなくて、絵画芸術と真摯に向かい合うことで得られた一つの答えがここにはあります。 時には胸を詰まらせ、時には身を震わせ、時には溜息をつき、時には言葉を失い・・ 見え隠れする絵の奥の魂へと、しなやかに誘われる絵画鑑賞読本。 怖さを突きぬけて、いろんな感慨が迫りくる一冊でした。
ヘンリー八世の肖像画を描いたホルバインが直接的に感じていたであろう恐怖が絵に現われているという解釈・・これが一番ゾッとしました。 やっぱり画家の生い立ちや運命や業とか、知った後では深みが全然違うというか、全く別モノに見えてきます。
一番好きな絵は、ルドンの「キュクロプス」。 この絵を見ていると堪らなくなる・・ クノップフの「見捨てられた街」も好き。 魅入られたように見つめ続けずにはいられない静かな魔性がいい。 グリューネヴァルトの「イーゼンハイムの祭壇画」も忘れられません。 これは中野さんの紡いだストーリーと、画家への思い入れが、絵の中に凝縮されてしまって、完全に思うツボ・・
ドガの「エトワール、または舞台の踊り子」や、ジョルジョーネの「老婆の肖像」や、コレッジョの「ガニュメデスの誘拐」の裏に隠された社会の実相としての恐怖。 ゴヤの「我が子を喰らうサトゥルヌス」や、レービンの「イワン雷帝とその息子」は、モチーフそのものが宿す定め。 ブロンツィーノの「愛の寓意」のようなイコノロジー(図像解釈学)を駆使して解読に挑戦する知的遊戯的なのも面白い。
描き手の背景はもとより、歴史や文化、神話や古典や聖書など、一枚の絵を紐解くための鍵は幾つも存在するわけなのですが、あぁ、こんなところで歴史やなんやかや学習しているようじゃダメダメですね;;
わたしは純粋な芸術性を愛でることには不慣れ過ぎるので、背景や周辺を手掛かりに様々なヒントを貰いながら、自分なりに、これからも少しずつ絵に親しんでいけたらいいなと思いました。

<収録作品>
ドガ : エトワール、または舞台の踊り子
ティントレット : 受胎告知
ムンク : 思春期
クノップフ : 見捨てられた街
ブロンツィーノ : 愛の寓意
ブリューゲル : 絞首台の上のかささぎ
ルドン : キュクロプス
ボッティチェリ : ナスタジオ・デリ・オネスティの物語
ゴヤ : 我が子を喰らうサトゥルヌス
アルテミジア・ジェンティレスキ : ホロフェルネスの首を斬るユーディト
ホルバイン : ヘンリー八世像
ベーコン : ベラスケス(インノケンティウス十世像)による習作
ホガース : グラハム家の子どもたち
ダヴィッド : マリー・アントワネット最後の肖像
グリューネヴァルト : イーゼンハイムの祭壇画
ジョルジョーネ : 老婆の肖像
レービン : イワン雷帝とその息子
コレッジョ : ガニュメデスの誘拐
ジェリコー : メデュース号の筏
ラ・トゥール : いかさま師


怖い絵
中野 京子
朝日出版社 2007-07 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★★
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