きのうの世界 / 恩田陸
川と山に囲まれたM町。 町はずれにある人気のない果樹園の丘の管理小屋に住み着いた見知らぬ男の身に降りかかる“水無月橋殺人事件”の真相と、町のシンボルとなる塔と水路に隠された秘密。
章ごとに視点を変え、時を前後し、事件の謎を探る人物や街の住人たちによる証言と推理の断片が提示され、徐々に物語の全容が形づくられるというか、ますます混乱の渦中に叩き込まれるというか・・ といった展開は、これまさに恩田クオリティ。 視点の切り替えによって見え隠れする存在の不確かさみたいな・・不安定な気配が終始漂います。
異能者の苦悩と、古くからの共同体に根差したフォークロア的な謎と、どちらも大好物な題材なんですが、なんといっても舞台となる街が、ひんやりと美しい。 水路沿いに歩く歴史の散歩道、古い立派な構えの日本家屋の連なり、しのつく雨の音、匂い・・ この街に迷い込んで、背筋をゾワゾワさせながらそぞろ歩きたい。 老犬を連れた双子のお婆さんとすれ違ったり、レトロな佇まいの喫茶店で雨の檻に囚われながら、濡れそぼった猫を撫で撫でしたり・・
推理小説的なシチュエーションを雰囲気作りに活用するという手法も恩田ワールドの奥義の一つと思っているので、謎が回収されないくらいでは凹垂れませんけれど、この作品は比較的読者に親切というか、取り敢えず目立った謎は拾っとこくらいの配慮が窺えた気もします。 そこが逆に半端なミステリ感を強めてしまったようにも、ちょっと思うのだけど。 恩田さんは、読者に阿らないってイメージが好きなんで・・
ラストはまるで、スローモーションのように煌めくメルヘン。 静謐で甘やかで優雅で哀しくて・・ アリアかなんか流れてたら絵になるなぁ。 そういえば、高度情報化社会と異常気象が何気にキーワードっぽかったなー。


きのうの世界
恩田 陸
講談社 2008-09 (単行本)
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