生き屏風 / 田辺青蛙
日本ホラー小説大賞の短篇賞を射止めた表題作に、書き下ろしの二篇を加えた幻妖譚です。 人里に棲む妖たちと人間が一定の隔たりを置いて共存し調和する日常の情景をたおやかに描いた連作集。
解説の東雅夫さんが同じ系譜の作品として川上弘美さんの「神様」、梨木香歩さんの「家守綺譚」をあげておられた通り、ホラーというよりは自浄作用のある民話ファンタジーのような趣き。 ぐりんぐりんにお気に入りの世界観でした。 微かに香る耽美な妖しさとノスタルジックな湿潤さ、晴朗で伸びやかな愛らしさのブレンドが絶妙で、ずっと浸っていたくなる・・
江戸の情趣と、道師が力を宿していた古代や中世を感じさせる日本古来の地盤に、ほんのり中華の香りを滲ませたワンダーランド的舞台背景(3話目なんて仄かに西洋の魔女を想わせるほどだった・・)に魅了されます。
前髪の下には小さな自慢の角を持ち、淡い緑色の眼をした鬼の子の皐月は、村はずれで県境を守る道祖神(?)のような役目を担う朴訥な妖鬼。 布団という名の愛馬の首を寝床にして人馬一体で棲息しています。 とぼけた愛敬と謎めいた一面を併せ持つ猫の化生の妖や、徒っぽい妖艶さを振り撒く狐妖、菊の花精の姉妹や冬の山の神、そして里に暮らす常民たちが繋がり合い、交差し、四季を彩る風趣と共にしっとりと息衝いています。
人より遥かに永い寿命を与えられた妖鬼たちと、人間の短い一生との束の間の邂逅は、宝石のような輝きを放っていて、ハートを鷲掴みにされてしまいます。 妖たちがほろ酔い気分の戯れに語る思い出話は、物悲しくも甘やかな郷愁となって作品世界を優しく包み込むのでした。

<余談>
“馬の血肉の中で眠る”というモチーフは「中国の神話」の中に出てきた記憶が微かにあったのですが、やはり起源は中国の古典にあるそうです。 やがて日本各地に伝わり、特に東北地方に流布する馬娘婚姻譚(オシラサマの起源)として根付いたのだとか。 そういえば「遠野物語」にも入っているんですよね。
火の山の麓に棲む火食い虫というのも、わたしの脳内では中国と関連付けて記憶されているのですが根拠は皆目不明;;


生き屏風
田辺 青蛙
角川グループパブリッシング 2008-10 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★★
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