宇田川心中 / 小林恭二
黙阿弥×近松っぽい感じ? 歌舞伎へのオマージュのような・・伝統的な江戸狂言の世界観を体現したかのような作品なんですが、ラストはカタストロフィというより、もっともっと救済のあるロマンティックな愛のイデアに仮託されていくのが素敵。 渋谷センター街を歩く少年少女が“袖振り合う”シーンにキュンとなりつつ、芝居を観終わった時のような充足感が胸に広がっています。
ごく普通に小説として読んだら、もしかすると入り込めなかったかもしれないんだけど、物語を俯瞰する神の目線を持った静かな語り手と、今生という短い幕間劇と永劫の魂の流離いを演じる役者のような登場人物たち。 そんな戯曲めいた構成が物語世界と見事なまでに調和していました。
悲劇の恋に身を滅ぼした娘を想い、恋に呪いをかける鎌倉時代の山賊、大和田道玄。 和田の合戦に連坐して落魄れたものの、元は武士であった道玄が、谷だらけの渋谷の地形を生かして張り巡らせた洞窟の地下要塞。 その上に建立された道玄寺は、恋に破れし者の鎮魂を目的とした日本でただ一つの寺といわれている。 土地と人の因縁が錯綜する地場に亡者のように立ち現われていく懊悩・・
江戸末期を生きる登場人物たちの運命が、道玄寺の奥院(元の地下要塞)にある寺宝“荘厳の鉦”をめぐる因果応報の闇に呑み込まれていきます。 不条理な運命に弄ばれる地獄めぐりの人生。 業火に焼かれながらあまりに無力で小心な悪党たち。 鎌倉から江戸へ、数百年の時を超えて廻る因果の末、恋に惑う者たちの罪業が愛の祝福に転化されていくスペクタクルに痺れました。


宇田川心中
小林 恭二
中央公論新社 2007-03 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★
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