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影のオンブリア / パトリシア・A・マキリップ
[井辻朱美 訳] かつて栄華を誇った美しくて強大なオンブリア公国に忍び寄る衰亡の影。 グリーヴ大公家の世継ぎをめぐる政争に乗じて、荒んだ地上世界は、地底に広がる影の都の中へひたひたと沈み込もうとしています。
うらぶれた街路にひっそりと口を開ける入り組んだ秘密の路地や、宮殿の奥の忘れ去られた扉といった不可視の区画を介して侵食し合う二重映しの世界が、定まらぬ境界を越えて交錯し、都は見果てぬ混迷の中へ。
幾重もの時代を彩った装飾的で華美な内装や調度品の意匠。古い皮のように脱ぎ捨てられて埋もれ隠された記憶や夢の欠片。 それらが燻ぶり、煤け、剥げ落ち、綻び、朽ち果て・・ 揺らめく蝋燭のまわりに浮かび上がる暗闇の中で切ない吐息を洩らしているかのようです。 地下の都に張りめぐらされた時の迷宮に、複雑な模様を刻みながら、過去という夢想が層を成して溶け込み、蠢いている。 そんな甘やかで悩ましい肌触りが、虫の羽音のような繊細さで響いてくる心地がしました。
築きあげた重みに耐えかねて、自らの過去の中へ取り込まれようとする古い歴史ある都の苦悩といった物語の深部が、霞みのような薄いベールに覆われてチラチラと透けて見えそうで見えない。
地上と下界、現在と過去が混じり合う光と影の都、それを反射するもうひとつの世界への扉・・ まさに“地球の垂直構造と時間の遡源構造を重ね合わせた地質学の時代たる19世紀的時空観に根ざした物語”なのですね。 訳者あとがきでの解説に触れて、この世界観を(やっと;;)ぼんやりと理解しました。 宮殿の頂きへと誘うベクトルは、行き詰まった時の先を見つめる希求の想いの結晶のよう・・ 滅びと再生を混沌と宿した未知なる世界への風穴を開く勇者はやがて伝説となり、いつしか悠久の歴史の中に紛れ込んでいく・・
溜息の漏れるような至福のファンタジーなのですが、うぁ〜ん、でも入っていくのに才能に近いコツがいる気がします。 自分が生粋のファンタジー読みでないからかもしれないけども。 この本に選ばれる人が痛烈に羨ましい〜。


影のオンブリア
パトリシア A マキリップ
早川書房 2005-03 (文庫)
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