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ナイフ投げ師 / スティーヴン・ミルハウザー
[柴田元幸 訳] 第3短篇集で、90年代の作品を中心にしたラインナップ。 ミルハウザー的マニアックさが濃厚です。 あとがきで柴田さんが吸血鬼に噛まれることに喩えておられたけれど、いけないものに魅入られてしまうような、ちょっぴり後ろ暗い中毒性に御用心。(逆に全く受け付けないって人も多いかも)
定義を逃れ、制約を解き放ち、安全の境界線を越え、禁じられた領域へと踏み入ることへの畏怖、憧憬、快感、嫌悪・・その狭間のアンビバレンス。 もうそれに尽きる気がします。
ストイックな芸術家が、破滅の暗い恍惚に行き着くまで己の道を突き詰めてしまうようなコンテクストの中で、重きが置かれるのはむしろ“私たち”ギャラリーの心理。 安堵や失望や健全や退屈と、不安や危険や興奮や悦楽を秤にかけ、不穏な苛立ち、秘かな動揺に掻き乱されながら、どこまで異端を許容するか悪魔に試されているみたいな蠱惑に満ち、さらにそこへ、レトロなアバンギャルドへの郷愁めいた、そこはかとないロマンがひたひたと香るのが至妙の芸。
幼年期や思春期の煌めきを掬い取った「空飛ぶ絨毯」や「月の光」のような甘酸っぱい夢想もよかったし、ゴールドラッシュの狂乱の最中の伝説の遊園地を描いた「パラダイス・パーク」(一瞬「マーティン・ドレスラーの夢」の後日談かと思った)のような、くらくらするほどの奇想の立体図を脳内で構築していく愉楽が病みつきになる作品や、からくり芸術の極致を描いた「新自動人形劇場」は圧巻でした。
でも一番のお気に入りはラストの「私たちの町の地下室の下」。 境界のあちらとこちらが、明確な自己の二面性として描かれていて、ここでの解釈は再三提示され続けたアンビバレンスに対する一つの答えかなって思いました。 戻ることの高揚・・それは凡人に授けられた素晴らしい特権なのかも。 生き物のように変容している立体地下迷路を彷徨う人々、小さな町の佇まい、しっとりとした空気の肌合い・・ 恩田陸さんがリスペクトものでも書いてくれそうな魅惑のシチュエーションに首ったけです。


ナイフ投げ師
スティーヴン ミルハウザー
白水社 2008-01 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★
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