だましゑ歌麿 / 高橋克彦
時は江戸。 寛政の改革時代の物語。 老中松平定信の緊縮政策真っ只中。 ささやかな贅沢すら根こそぎ奪われる庶民の哀しみや怒り、エスカレートする出版物規制に抗う文化人の心意気など実に生き生きと描かれている。
清廉潔白さは行き過ぎると独善的となり、他人の痛みがわからなくなってしまう。 主人公の仙波一之進は、“あんた(老中)だけの世の中か。そりゃあねえよ”と、圧政に苦しむ庶民のために立ち上がる町方同心なのである。 下っ端役人一匹、事件の真相を追いながらお上に戦いを挑む構図は、もうバリバリノリノリのハードボイルドミステリ。
主役の男っぷりもさることながら、実在する人々、歌麿、春朗(後の北斎)、蔦屋重三郎、鬼平など、贅沢な脇役陣が勢ぞろいなのも魅力。 史実の狭間はドラマチックに彩られ、みんなそれぞれに華があり信念があり(時に影があり)格好よすぎ。
京伝怪異帖」(特に後半)と時代が同じだ。 「京伝怪異帖」には歌麿の風聞が少しだけ描かれていたし、こちらにも山東京伝の風聞がやはり少しだけ描かれている。 蔦屋重三郎は両作品に存在感のある脇役として登場している。
蔦重・・惚れます。 身上半減されても、煌々と明かりを灯し、店先に売れっ子作家の錦絵や洒落本を並べ続ける蔦屋。 活気を失った江戸の町の中でその光景が庶民の希望の灯りとなってくっきりと浮かび上がってくるようでうるうるしてしまった。 写楽や歌麿を世に送り出しただけでなく、この作品では北斎の風景画への道を開いた人物として描かれてもいた。 これは脚色だろうけども。
そして歌麿。 この作品の中では“渦中の人物”として登場する。 錦絵の絵柄や色遣いや大きさなど厳しい規制を受けると、工夫の贅沢でもって対抗し、結果的に筆に磨きをかけ、錦絵を進化させてしまう絵師魂に拍手喝采。 とにもかくにもいい男っぷり満載の物語だ。
ところで、本作には続編(姉妹編?)となる「おこう紅絵暦」と「春朗合わせ鏡」の2作(現時点で)があるみたい。


だましゑ歌麿
高橋 克彦
文藝春秋 2002-06 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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