※ ネタバレご注意を ※

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | - |
変身のためのオピウム / 多和田葉子
ギリシア・ローマ神話に登場する女神やニンフに因んだ22人の“わたし”の分身たちの物語(だと思いました)。
内面に渦巻く想念を22人の女性に注ぎ込んで、どんどん自身は薄くなり最後に消滅しますので、分身といってもコピーではなく(エネルギーの)移動といった方がいいと思うんですが、(勝手な思い込みだったらお許しを)作家が作品を生み出す行為を体現したメタフィクション小説っぽい印象を強く受けました。
“わたし”ことリアル作家(もしくは多和田葉子)の地下トンネル(無意識)に被せられた長い蓋である通り(意識)を抜けて、迷宮の町(脳)から22人の女性たち(作品)を解き放つために、どんだけ脳内麻薬を精製すれば気がお済みになるのですか・・ 所有するものを突き崩し、自身を自身の人生から独立せしめるという一流の陶酔状態を、束の間、追体験させてもらえたような・・ たとえ感応までは無理でも興奮を覚えました。
時空の歪んだ現代ドイツを舞台に、骨董品を売るスキラ、語学教師のクリメネ、踊り子のテティス、詩人のコロニス、デザイナーのゼメレ、美容師のティスベ・・ 22人の女性たちによって徐々に編み上げられていく、極めて輪郭の曖昧な、それでいて精緻で、加えて毒々しいまでに挑戦的で、なのに狂おしいほど詩的な世界の中で、人間や社会の実相と真理の隔たりを圧倒的な感度で哲学してるのです。
後半になるほど(徐々に慣れていったせいかもしれませんが)、元ネタの人物像やメインモチーフが巧みに仕込まれていることに気付かされ、心躍りました。 嫉妬という芸術に熟達しているユノーとか、白いスカートの少女を卒業できないサルマシスとかね。 ゼメレなんて逸話がまんまアレンジされてます。 テティスがイオのベッドで夢中になって読んでいたオウィディウスの「変身物語」が激しく読みたいです。

<おまけ>
本作自体は特に神話中の変身譚を下敷にしているわけではないのですが、変身譚に関係する人物が象徴的に選ばれている感じだったので、原典でどんな風に変身と係わっているのか気になって、各章の主人公22人、ざっと調べてみました。
【レダ】 白鳥に身を変えたゼウスと交わる
【ガランティス】 ヘラの意を汲むエイレイテュイアにイタチに変えられる
【ダフネ】 ペネイオスに願って月桂樹に変えてもらう
【ラトナ(レト)】 里人をカエルに変える
【スキラ(スキュラ)】 魔女キルケに怪物に変えられ、最期は岩と化す
【サルマシス(サルマキス)】 ヘルマフロディトスと一体化して両性具有に転じさせ、自らは消滅
【コロニス】 コロニスの死の原因となったカラスは、アポロンによって羽毛を白から黒に変えられる
【クリメネ(クリュメネ)】 パエトンの母? アトラスやプロメテウスの母? いずれにしても変身譚不明
【イオ】 ゼウスに牝牛に変えられ、後に元の姿に戻してもらう
【テティス】 猛獣や怪物、炎や水に変身してペレウスから逃れようとする
【リムナエア(リムナイエ?)】 ニンフの一人? 変身譚不明
【ニオベ】 ゼウスに願い石と化す
【イフィス(イピス)】 イシスの慈悲で女性から男性へ変身する
【ゼメレ(セメレ)】 乳母に身を変えたヘラに唆される
【セレス(デメテル)】 老女に身を変え放浪する
【ポモナ】 老婆に身を変えたウェルトゥムヌスに口説かれる
【エコー】 自ら声だけの木霊になる
【ティスベ】 死後、ピュラモスと共に桑の木に記標を留める
【ユノー(ヘラ)】 カリストを熊に変える(一説にはアルテミスによる)など
【アリアドネ】 死後、ヘパイストスによってかんむり座に
【オーキュロエ(オキュロエ)】 予言の途中、神々によって牝馬にされる
【ディアナ(アルテミス)】 オクタイオンを牡鹿に変えるなど


変身のためのオピウム
多和田 葉子
講談社 2001-10 (単行本)
関連作品いろいろ

| comments(4) | trackbacks(0) |
スポンサーサイト
| - | - |
C O M M E N T
こんにちは。
ギリシア神話好きとしてはこの作品すごく気になります。
文庫化はまだされていないのですね。
図書館で借りてきてもいいかもしれません。
| 森山樹 | 2010/01/29 |

森山さん、こんばんわ♪
これ、絶版本なんですよねぇ。勿体無い。
文庫化も・・期待薄な悪寒が走ります;;
純文系なので、好みは激しく分かれると思うのですが、
ギリシア神話好きなら、其処此処でニヤリが待っている・・はず(ちょっと弱気)。
森山さん、もし読まれてお気づきになられた暁には
クリメネとリムナエアが何者なのか教えてください(爆)
| susu | 2010/01/29 |

絶版かあ。
古本屋さんをあたってみることにします。
まあ,縁があれば出逢えることでしょう(苦笑)。

クリメネはパエトンの母で正解だと思います。
パエトンがゼウスの雷で墜死したときに,
娘たちと嘆き悲しみました。
そして娘たちは木に変身したという逸話があります。
リムナエアは残念ながら思い出せません。
オウィディウスの『変身物語』を読んだのはだいぶん昔のことですので……。
| 森山樹 | 2010/01/29 |

娘たち! そっちでしたか!
教えていただいて、微かに思い出してきました。
で、手元のブルフィンチ版を繰ってみたら、
パエトンの姉妹のヘリアデスが、彼の運命を悲しむあまり、
河岸でポプラの樹になってしまい、止まらない涙は、
河に滴って琥珀となった・・・とありました。

森山さん、素晴らしい! すっきりしました♪
リムナエアは「変身物語」を読むときの課題にとって置きます^^
| susu | 2010/01/29 |









トラックバック機能は終了しました。