円朝の女 / 松井今朝子
江戸と明治を丁度半分ずつ生きたという三遊亭円朝。 幕末から明治にかけての時代の転換期にあって、後の世までも語り継がれることとなる斯界の大名人を愛した五人の女性たちの姿を、傍で円朝を見続けてきた元弟子の昔語り調で描いていく小粋な作品。
若き日の生硬な想いの先にあった女性、江戸吉原の掉尾を飾った花魁、不肖の倅といわれた朝太郎の産みの親となる女性、柳橋の名妓であった正妻、晩年の円朝の支えとなった女性・・ 虚実の皮膜で軽快に踊りつつも、世相を掬い取る筆の確かさと共に、運命に翻弄されながらも動乱の文明開化を生き抜き、奇しくも円朝と人生を重ね合わせた女性たちの悲哀や矜持を、胸中深くまでしっぽりと届けてくれる今朝子さんらしい燻し銀のようなエンターテナーぶり。
また、女性たちとの所縁に絡めながら、円朝の横顔や、噺家として歩んだ半生の来歴を傍景として緩やかに辿ることで、命の端がチリチリと焦げるような得も言われぬ情趣が、いっそ滲み出してくるようでした。
余談なんですが、少年時代に国芳門下に修行に出されたことがあるとか、正妻のお幸は澤村田之助の元女房であるとか・・これ史実なんですよねぇ。 人物やエピソードが交差して、読んだ本と本とが繋がり始めるのが、書物を開く無上の愉しみの一つでもあります。
“可哀想”という気持ちを馬鹿にしてはいけないと、諭してくれた旧師のことを何故か思い出していました。 その深い意味に、やっと目が向き始めた頃合いかも。 有害な感情を一切含まない、さもしい柵を逸脱した無為の言葉としての“可哀想”の持つ美しさが、この物語には詰まっていたように感じられてならなかったです。


円朝の女
松井 今朝子
文藝春秋 2009-11 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★
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