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ヒストリー・オブ・ラヴ / ニコール・クラウス
[村松潔 訳] 一篇の物語が時空を経て人々の魂の遍歴をめぐり、やがてそれら人生が交差し、響き合っていく・・ 愛と生命へのイノセントな賛歌だなぁーと感じました。 こんなにストレートに謳いあげていても気恥ずかしさを超越して様になってしまうところが凄いというかなんというか。 翻訳ものならではの洗練されたウィットが良いフックになってくれて、作品を愛らしく凛々しく躍動させていたような印象。
ナチスのポーランド侵攻を逃れてアメリカに渡り、人生の最晩年を迎えている老人のレオ・グルスキ。 同じく南米に渡ったポーランド移民で、“愛の歴史”という一冊の本を世に残したツヴィ・リトヴィノフ。 そして、その“愛の歴史”の作中に登場する女性に因んで名付けられたアルマ・シンガーという14歳の少女。 三つの独立したストーリーが並走しながら徐々に収束し、全体の輪郭がくっきりと像を結んでいく構成も非常に吟味されていてそつがなく、ストーリーがギアチェンジを始め、ドラマの奔流へと漕ぎ出す終盤はページを繰る手が止まらなくなりました。
アルマ・シンガーのようなオマセな小娘って、江國香織さんの小説に出てきそうだなぁーと思っていたら、訳者の村松さんが解説で「地下鉄のザジ」をあげてらして、そか、(もしかすると江國さんも含めて)原点はそこなのかも・・と感じ入ったり。
アルマは母と弟と3人家族なのですが、病気で命を落とした夫であり父親である人物の不在に、三者三様の流儀で絡め取られて生きていて、「神様のボート」のような空気感なんです。 夫の思い出の中で完結して生きているお母さんは、もうすでに静かな狂気の世界の住人なのですが、確固たる何かを求めるかのように自分のルーツに拘ろうとするアルマや、偉大な父の息子であろうとするあまり、自身をユダヤの救世主と考える弟のバードには、懸命にこちら側で生きようとする張り詰めたバイタリティが漲っているかのようです。
そして、アスファルトの下に埋もれた土のにおいへの郷愁のような・・グルスキ老人の泥臭く滑稽な悲傷と、塗り固められた凄絶な孤独、死を覚悟してなお繋がりを希求して止まない命の血潮を描く筆致もまた素晴らしかったです。
彼ら彼女らがラストに見せてくれる絶品のハーモニーと、喪失の痛みに優しく降り注ぐ奇跡の中の魂の輝きに、怯まず素直に酔うことができました。


ヒストリー・オブ・ラヴ
ニコール クラウス
新潮社 2006-12 (単行本)
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