南の島のティオ / 池澤夏樹
珊瑚礁の海に囲まれた南洋の長閑な小島に、暫しトリップして参りました〜。 語り手を務めるのは、島の北側の海辺の町で、ホテルを営む一家の息子ティオ。
このホテルを贔屓にしている日本人の池澤さんが、ティオ少年から聞いた島の不思議な物語を一冊の本にまとめたという体裁の連作短篇集です。
舞台のモデルはミクロネシア連邦のポナペ島(現ポンペイ島)で、実際に池澤さんは足繁くこの島を訪れた経緯があり、現実の('80年代頃の?)ポナペ島の風景と、そこから触発されて育くんだ作家のイマジネーションが、分ち難く融合した瑞々しい物語世界を醸し出して下さっています。
解放的で呑気な島民たちや、浅瀬の海にダイブする島っ子たちの歓声、幸福を伝播される旅行者たち、得体の知れないマレビト、仙人のような老婆、物言わぬ精霊の気配や悪戯な土地の神・・ 彼らが織り成す10篇はどれも、ティオの澄んだ眼を通して鮮明な像を結び、ふくふくとしたユーモアと、恬淡とした明るさと、そして静かな哀しみで、ひたひたと心を潤い、満たしてくれる。 上書きされていく人生の背後をそっと手探りしてみたくなるような、この感触は何だろう。
環礁の内海、マングローブの茂み、熱帯ジャングルで囲まれた未踏の山、屋根を葺き、カヌーを帆走させるパンダナスの葉、誰のものでもないヤシの実やバナナ・・ 南国特有のゆったりとした時の流れは、飛行機やモーターボートやピックアップや缶詰やコーラをも、懐に取り込んで余りある程にしなやかなのだけれど、どこか・・この風景が、近代化の過渡期にあって、自然の旋律と文明の利便性とがバランスを保ち共存している束の間の幸福な一ページを想起させてキュンとなってしまう。
“どういうことが神さまの目から見て悪いことなのか、人間にはなかなかわからない”と自問する、神秘からも科学からも同等の距離にあるが如きティオのお父さんの何気ない言葉が胸を深く衝く。
拗ねたサラティムカの神さまが、草色の空を泳ぐ魚たちの幻影を見せて人を惑わす話や、そこを歩く者に幸運をお裾わけするため、十字路に宝物を埋めるバムさんの話なんかが大好きです。
受け取った人を呼び寄せる力を宿した絵ハガキを売るピップさんからティオがもらった特別なプレゼントの使い道が気になります。 大人になったティオの素敵な物語が萌す予感が・・


南の島のティオ
池澤 夏樹
文藝春秋 1996-08 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★★
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