居酒屋ゆうれい / 山本昌代
横浜下町のうらぶれた界隈。 寸止まりの路地の奥で、ひっそりと商売をしている居酒屋が舞台です。 昼間も薄暗い二階の座敷で病に臥せりながら、自分亡き後、亭主が後添えをもらうのではないかと気を揉む妻に、再婚なんてするものかと安請け合いをしてしまう亭主。 ならばならば約束を反故にしたらば化けて出ようぞと、今際の際に言い残す妻。
まるでこれって古典落語の「三年目」に擬えたかのような導入部。 円生が好んで高座にかけたという元ネタの筋立てには、なんとも女心の色香を感じさせる下げが用意されているのですが、さて、こちらはというと・・
明確な記述はないんだけど、そこはかとなく昭和を感じさせる背景が美味。 40年代頃かなぁ。 蒸し暑い空気を無駄に掻き回すくたびれた扇風機とか、カチっと灯りを切って真っ暗になった座敷に響く柱時計の音とか、縄のれんを頭で分けて顔をつき出す常連客とか・・ 侘しい遣る瀬無さが確実に底を流れているんだけど、カラッと淡泊な(どこか痛々しいくらいの)陽気さに貫かれた物語なんです。
で、案の定、亭主はちゃっかり新しい女房をもらい、新婚夫婦そろって幽霊騒ぎに見舞われることに^^; 最初はアワアワ仰天するものの、幽霊が全身から普通感(?)を漂わせているので、間もなく“怖い”が抜け落ちてしまい、水入らずを邪魔されて憤懣やる方ないという方向へ夫婦の感情は流れていくのですが、その感情さえも、突っかかってはいなされながら、徐々に振り幅はゆらゆらと頼りなくなっていく・・
この前妻の幽霊、亭主への未練とは名ばかりで、実は情や念の欠片も持ち合わせないまま、ただ何となく、ふらっと居座っている感じなんです。 よくよく考えるといっそ不気味なのであるが。 (新妻なんか早々に懐いちゃうし;;)
この顛末が飄々としっぽりと、とぼけた可笑しみを醸し出しながら描かれていてめっぽう楽しい。 喧嘩腰にぽんぽんと文句を並べ合ううちに話の焦点が微妙にズレていくという、江戸っ子の直系みたいな夫婦の掛け合いや、釈然としないまま蚊帳の外にされていく亭主が、名誉(?)奪還のために画策する浅知恵の空回りっぷりや・・ 噺家さんに朗読してもらいたいっ!
でもね。やっぱりこれはトワイライトゾーンものとして読みたい。わたしは。 笑いに取り紛れて見過ごすうちに、少しずつ流れ流され、とろんと虚ろになっていく感じ。 心の敏捷な反応が蝕まれていくような怖さが物語の裏側に貼りついている。 静かな狂気の白眉だと思いました。 山本昌代さん、恐るべし。


居酒屋ゆうれい
山本 昌代
河出書房新社 1994-10 (文庫)
山本昌代さんの作品いろいろ
★★★★
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